「東京電力が出資したのは、我々電力会社のビジネスモデルを壊しかねない技術だ。技術動向のリサーチは必要だが、出資までする必要があったのか」。ある大手電力会社幹部は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 大手電力会社のビジネスモデルは、大規模な発電所で電気を作って、それを企業や個人に売ること。つまり「発電してナンボ」の世界だ。省エネが進めば売り上げが減る。大手電力以外の事業者や個人が所有する発電所の増加も売り上げを減らす。太陽光発電などを手がける人が増えることは、大手電力会社にとってビジネスモデルを揺るがす一大事である。

 そんな中、東京電力ホールディングス(HD)は4月4日、英モイクサへの出資を発表した。モイクサは2006年に創業したベンチャーで、一般住宅向けに太陽光発電と蓄電池を組み合わせたシステムを提供している。

英モイクサが一般家庭に提供している蓄電池はコンパクトなのが特徴だ
英モイクサが一般家庭に提供している蓄電池はコンパクトなのが特徴だ

 蓄電池には、昼間に太陽光で発電して使いきれなかった電気や、料金が安価な夜間の電気を貯めておく。この電気を料金が高い昼間や、太陽光が発電しない夜間に使うことで、電力会社に支払う電気料金を引き下げることが可能になる。こうした使い方は「ピークシフト」と呼ばれる。

 日本では、太陽光発電による電気は「固定価格買取制度」(FIT)を活用し、地域の大手電力会社に固定価格で買い取ってもらうのが一般的だ。これは大手電力会社の電気料金よりもFITの買取価格の方が高いため、太陽光による電気を自分で使う(自家消費)よりも、FITで売電した方がお得だからだ。

 ところが海外では、FITの条件の切り下げや制度自体の廃止によって、太陽光による電気を自家消費した方が得になるケースが出てきている(蓄電池導入で「安い電力」になってきた太陽光)。この時、蓄電池を組み合わせてピークシフトすることで、太陽光による電力を余す所なく活用できる。太陽光発電や蓄電池の価格が安くなってきたことで、やりようによっては、これまで電力会社に支払ってきた電気料金よりも、トータルのエネルギーコストが安くなる。

 いま、世界各国で太陽光の自家消費と蓄電池を組合せたシステムを提供するサービス事業者が誕生しつつある。モイクサは、こうしたサービス事業者の中で、「VPP」(バーチャルパワープラント、仮想発電所)という技術によって、さらに蓄電池の付加価値を上げるビジネスをいち早くスタートさせた事業者として知られる。