モイクサの蓄電池システムは10年で投資回収可能に

 では、モイクサのサービスでエネルギーコストはどれだけ安くなるのか。少し前になるが、2016年1月にモイクサのクリス・ライトCTO(最高技術責任者)が日経エネルギーNextの取材で明かしたコスト試算を紹介したい。

 当時、モイクサは英国で350の家庭に蓄電池システム「Maslow」を販売した実績があった。Maslowの特徴は、コンパクトで安価であること。中国製のリン酸鉄型リチウムイオン電池を採用しており、容量2kWhで2000ポンド(約28万円)だった。現在、米テスラが販売しているリチウムイオン電池「パワーウオール」が7kWh以上の容量であることを考えると、容量は3分の1以下と小さい。

 蓄電池は安くなったといっても、まだまだ高価な商品だ。ライトCTOは、「テスラの電池は家庭向けには大きすぎる。電気料金を引き下げるのが目的なら2kWhで十分」と説明している。初期投資が安くなれば、導入へのハードルも低くなる。

 モイクサの試算では、ピークシフトによる電気料金の節約額は年間80~130ポンド(1万1000~1万8000円)。これだけだと、蓄電池システムの投資回収に15~25年かかってしまう計算だ。多くのメーカーが蓄電池システムの保証期間を10年に設定していることから、投資回収は少なくとも10年以内にする必要がある。

 そこで登場するのが「VPP」である。モイクサは複数の顧客の蓄電池に溜まっている電気を遠隔制御することでアグリゲーションし、あたかも1つの発電所であるかのように取り扱う。

 こうして集めた電気を、例えば、英国の系統運用機関であるナショナルグリッドが運用する「アンシラリーサービス」への入札や卸電力市場で取引する。そこで得た対価を蓄電池利用者に分配しようというわけだ。アンシラリーサービスとは、電力網を運用する系統運用機関が周波数を調整し停電を防ぐために実施する周波数調整市場のことだ。

 モイクサは取材当時、VPP運用によって得られる対価分として、年間76ポンド(約1万円)を固定価格で5年間支払うとしていた。ピークシフトとVPP運用による対価を合算すると、1軒当たり年間で約200ポンドの節約となり、「顧客は蓄電池の初期投資を約10年で回収できる計算だ」(ライトCTO)。

 英国も再生可能エネルギーの導入量が増加しており、系統安定化コストは増加傾向にある。今後、周波数調整市場の価格は上昇していくと見られている。そうなれば、モイクサのVPP運用による対価も上昇し、蓄電池のコスト回収期間も短くなるだろう。

 なお、東電の発表資料によると、モイクサは現在、VPPによって集めた電気を英国のデマンドレスポンス(DR)事業者である英キウイパワーなどに売電している。DR事業者を介して周波数調整市場に参加しているとみられる。