東電がモイクサに出資したのは「蓄電池ソリューションを学ぶため」

 話を東電HDの出資に戻そう。

 そもそも、東電HDのモイクサへの出資比率は3%。出資金額はわずか7000万円だ。この規模感に、「あえて出資する必要があったのか」という声が聞こえてくる。

 東電はモイクサへの出資の理由を「家庭向けの蓄電池サービスのビジネスモデルを学ぶため」と説明する。太陽光の自家消費を組み合わせた家庭向けサービスという点に注目している。

 とはいえ、自家消費モデルだけなら数多くの事業者が既に世界各国でサービスを開始している。国内でも、日本エコシステム(東京都品川区)が「じぶん電力」という名称でサービスを展開している。

 モイクサの面白いところは、VPP運用による対価を、蓄電池を導入した家庭に還元しているところにある。VPPこそ冒頭の大手電力会社幹部が「電力会社のビジネスモデルを崩壊させかねない技術」なのである。

 東電HDにモイクサのVPP手法について問うと、「日本にはまだ一般家庭を対象にした調整力市場は存在しない。現時点では視野に入っていない」という答えが帰ってきた。経済産業省が2016年度から展開している「バーチャルパワープラント構築実証事業」などに参画しながら、「様子を見る」という。

 では、出資の本当の理由は何だったのか。複数の関係者が「海外ベンチャーに出資することが必要だった」とみる。

国の意向が海外ベンチャーへの出資を後押し?

 福島第1原子力発電所事故により経営難に陥った東電は、実質国有化されている。そして、成長戦略の一丁目一番地が、他社とのアライアンスだ。

 今回の出資を手掛けたのは、2013年5月に設置した「新成長タスクフォース」という組織。この組織は、社外のパートナー企業とのアライアンスなどを通じて、新しい成長産業の創出に貢献することを目的としている。ベンチャーキャピタルでの勤務経験を持つ人材を登用し、海外ベンチャーへの投資を検討してきた。

 実は、モイクサへの出資は、新成長タスクフォースによる海外ベンチャー投資の3件目に当たる。1件目が2016年10月3日に発表した小型風車ベンチャー、米ユナイテッド・ウインド。続く2件目が昨年12月6日に出資した米ビア・サイエンスである。ビア・サイエンスは、AI(人工知能)を活用した送配電網の最適化ソリューションで実績を持つベンチャーだ。そして3件目がモイクサである。つまり、わずか半年の間に、3社のベンチャーに少額のマイナー出資しているのだ。