現在市場に流通している全固体電池は、薄膜電池である。これらは蓄電量が小さいため、センサーノード用といった小容量の2次電池程度にしか使われていない。しかし、固体電池の材料と構造を革新すれば、もっと大きな容量の2次電池装置に適用できる可能性がある。電気自動車やスマートグリッドに組み込むようなシステムが実現できるのだ。欧州の研究機関imecではそうした研究を行っており、同機関で電気化学蓄電池担当主席科学者兼プログラムマネージャーを勤めるPhilippe Vereecken氏が、これを実現するためのロードマップを語った。ナノコンポジットの高電子伝導物質が、高容量固体電池実現のカギを握っているという。

 1991年、Liイオン2次電池が市場に導入された。この電池は、広範囲の分野に大きな変化をもたらした。高いエネルギー密度を実現できた結果、まずパソコンに代表されるさまざまな電子機器を持ち運び可能にできた。スマートフォンや携帯電話機といった新しい機器も生み出した。「Liイオン2次電池がなければ、小さく洗練された形状のスマートデバイスをデザインすることはできなかったに違いない。今日ではLiイオン2次電池は、電気自動車やスマートグリッドのための大容量蓄電池としても使われている。こうした使い道では、電池容量に加え、電池寿命のようなパラメーターも重要だ。電気自動車では、素早く加速し、高速で走る必要があるため、最大電流量も重要だ。Liイオン2次電池がこうした要求を満たしているため、ほぼすべての電気自動車で使われることとなった」(Vereecken氏)。

 電流が発生するとき、電子とリチウムイオンは負極から正極に移動する。一方、充電時には逆方向に動く。電池容量を決定する要因としては、電極の材料が支配的である。電解質は電極間のイオン伝導に関与し、電池のパワーを決定する。「現在使われている液体電解質には限界がある。液体電解質を使用するためには、特殊なハウジングや多孔質の正極と負極の間に特殊な被膜が必要だ。こうした理由から、液体電解質を使用した電池の大きさやデザインに制限がある。また通常、液体電解質には引火性や腐食性があり、安全や健康上のリスクがある」(Vereecken氏)。

 性能を犠牲にすることなく、さらに性能を向上させながらも、こうした制限を打破した電池を製造するため、これまでさまざまな方法が模索されてきた。imecはこうしたものの中から、無機の全固体電池というコンセプトを選択した。「固体の電解質を使えば、電極間の距離を狭めることができ、電池をより小型にできる。つまり、より大きなエネルギー密度を提供できる。ただし、残念ながら現在の固形電解質はイオン伝導度が低すぎて、平板の薄いフィルム状の小容量電池にしか使えない。こうした電池は、すでに今日の市場で大量に流通している」(Vereecken氏)。