通常、電源設計は、電子機器開発の最終段階に行われる。そのときの打ち合わせは決まってこのような感じになる。「これが電源の入力電圧。出力は複数チャネルあって、それぞれの駆動電流はこの程度必要になる。放熱特性を考えると、このくらいの変換効率がほしい・・・」。今までは、こうした打ち合わせで何とかなっていた。

 しかし、電源の設計難易度はますます高まっている。特に、出力電力が数百Wと大きい高性能な電源では、相反する設計条件をバランス良く整合させる必要がある。設計条件とは、出力電圧設定の柔軟性や、ダイナミックな(動的な)入力変動/負荷変動特性、重負荷/軽負荷時の変換効率、使用する電子部品の許容誤差、放熱特性と温度係数、モニタリング/保護機能、ダイナミックな出力電圧/電流変動への対応などが挙げられる。

 高性能電源の設計の難しさは、常に新しくなる負荷条件に対応すべく、長年にわたって電源開発に取り組んできたエキスパートを除いては、完全に理解できているとは言い難い状況にある。それが端的に表れているのが、IoT(Internet of Things)向けクラウドコンピューティングや通信インフラを構成するサーバーやストレージ機器、ネットワーク機器などの電子機器の電源設計の現状である。

 こうした電子機器に求められる性能は年々向上しており、それに合わせて電源に対する性能要求も高まっている。

アナログ制御方式の限界

 電源への厳しい性能要求に対応するため、電源技術者はさまざまなアナログ制御方式を開発してきた。例えば、古典的なアプローチと言える電圧モード制御方式や電流モード制御方式のほかに、コンスタント・オン・タイム(COT)制御方式やヒステリシス制御方式などである。

 しかし、これらの方式ではもはやユーザーの要求に応えられなくなりつつある。エラーアンプやコンパレーター、ランプジェネレーターなどの機能ブロックからなるPWM制御ICでは、アプリケーションの制約条件やさまざまな変動要素に対応するには限界があるからだ(図1)。例えば、PWM制御回路におけるループの時間遅れ/位相シフトの問題や、位相補償回路の部品選択が雑音発生量や大信号応答に影響を与えるという問題への対応は難しい。

図1 アナログ制御方式を採用したPWM制御IC
図1 アナログ制御方式を採用したPWM制御IC
エラーアンプやコンパレーター、ランプジェネレーターなどの機能ブロックで構成する。位相補償回路を外付けする必要がある。
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 エラーアンプやコンパレーター、ランプジェネレーターなどの機能ブロックで構成する。位相補償回路を外付けする必要がある。

 トレードオフによって発生するデメリットを最小限に抑えるには、要求される性能条件に応じて電源回路を微調整する必要がある。しかし、アナログ制御方式で、こうした設計手法を実践するのは難しい。1種類のPWM制御回路では、最新の電子機器が求める柔軟性に対応できないからである。つまり、アナログ制御方式には、実現可能な性能と適用範囲に限界が存在することになる。

 デジタル制御電源(デジタル電源)を使えば、こうした限界を超えることができる。デジタル制御電源は、アナログ制御ループを採用しているが、一部のパラメーターをデジタルインターフェース経由で調整できる。例えば、PMBus経由で命令を与えて、出力電圧を変更するといった使い方ができる。これは大きなメリットだが、この例はデジタル制御電源が持つメリットのほんの一部である。このメリットの説明だけで終わってしまうと、デジタル制御電源が本来持つ可能性を見過ごすことになる。