意外なことに、ブラシ付きモーターと白熱電球には共通点が多い。どちらも19世紀に発明されて成熟し、使い勝手がよいため、20世紀には日常生活と切り離せない存在となったが、21世紀に入ってからは省エネ化を強化する規制の犠牲となった。ただし白熱電球はほぼ消え去ったのに対して、ブラシ付きモーターから効率で勝るブラシレスモーターへの移行は遅々として進んでいない。理由の1つはコストである。それに加えて、ブラシレス・モーター・システムを構築することは技術的にかなり困難で、その問題が未だに解消されていないという事情もある。安価だが効率が低い白熱電球は半導体技術の進歩によって市場から姿を消したが、同じことがブラシ付きモーターにも起きようとしている。

 電球とは異なりあまり目につかないものの、電気モーターは至るところに存在する。機械的に動作するものは、ほぼすべてがモーターで動いている。モーターは、家庭では、冷蔵庫、食洗機、洗濯機を動かしている。通勤途中でドアを開けたり、エレベーター、エスカレーター、列車を動かしたりしているのもモーターである。職場では、モーターが珈琲を入れ、コンピューターを冷却し、エアコンを動かす。最近の自動車には、ミラー、ヘッドライト、座席の調節から燃料、水、フロントガラス洗浄液の汲み上げ、ブレーキや操舵のアシストに至るまで、多様な機能を駆動するために20~50個のモーターが採用されている。将来は、自動車自体を動かすのも電気モーターが行うであろう。