モバイル機器用アプリケーションプロセッサーやGPUの性能向上が続く中で、Liイオン電池の電源電圧端子を安定させる昇降圧レギュレーターの必要性が高まってきた。昇降圧レギュレーターは一時電源喪失(電力が一時的に失われた状態)を、電源電圧落ち込み期間中にその電圧を昇圧することで防ぐ。また電池電圧が高い場合に、昇降圧レギュレーターは端子電圧を低いレベルに降圧し、下流サブシステムの電圧レギュレーターの電力損失を軽減する。

 この記事では、モバイル機器設計に使用される代表的な電源サブシステムアーキテクチャーと、昇降圧レギュレーターを使用する理論的根拠を検討する。まず、システム効率の計算をいくつか行い、昇降圧コンバーターをプリレギュレーターとして使用する利点を明らかにする。続いて、モバイル機器駆動に向いた高効率昇降圧レギュレーターを紹介する。

電源バスの電圧落ち込み(一時電源喪失)を防止

 すべてのモバイル機器は、給電のための電池を備えている。電池は抵抗を内包しており、バースト電流放電の影響を受けた時に端子上で異なる電圧シグネチャーを発生させる可能性がある。内部抵抗の値は電池の充電状態によって異なり、低充電状態時に最大になる。Liイオン電池が3.4V程度と放電終了に近い場合、内部抵抗は200mΩまで高くなる可能性がある。そのため、4Aのバースト電流は端子で800mVの電圧低下を招き、バス電圧を2.6Vに押し下げる可能性がある。ターゲットのLDO出力が2.85Vの場合、LDO入力はドロップアウト範囲に達し、瞬間的な電源喪失状態が発生する。

 一般にモバイルシステムではPMIC(Power Management Integrated Circuit)として、Bluetooth、eMMCメモリー、micro SDメモリー、Wi-Fi、RFトランシーバーなどの特定のサブシステム専用のLDOが20~30個使われている。図1は代表的なシステムブロック図と、大バースト電流放電の際のバス電圧落ち込みを示している。昇降圧レギュレーターをプリレギュレーターとして使用することで、このバス電圧落ち込み(一時電源喪失)を防止できる。

図1:モバイル機器用電源のブロック図とバス電圧落ち込み。Intersilの図。
図1:モバイル機器用電源のブロック図とバス電圧落ち込み。Intersilの図。
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