パワーエレクトロニクス産業の世界市場規模は、ここ10年程度は15兆~16兆円で推移してきた。現在の用途は、情報通信と、民生、各種産業、自動車がほぼ同じ割合だが、今後はハイブリッド自動車や電気自動車などの車載用途が大きく成長することが期待される。市場規模は、2030年に20兆円になると言われている。また、SiパワーデバイスからSiCパワーデバイスへの置き換えが進むと考えられる。SiCパワーデバイスはSiパワーデバイスに比べて高耐圧、低オン抵抗、高速で、さらに高温での動作が必要なためである。

 こうしたSiCパワーデバイスの特性が生きる代表的な導入事例として、JR東日本の山手線をはじめとした在来線向けの鉄道車両が挙げられる(表1)。またJR東海は2020年に投入する次期新幹線N700S系の駆動システムへSiCパワーデバイスを導入すると発表している(関連記事;新幹線のパワーエレクトロニクス進化の歴史)。N700S系では、SiCパワーデバイスなどにより駆動システム全体で約20%の軽量化を実現し、省エネルギーを実現しつつサイズも小型化でき、車両設計の自由度がいっそう高まるという。

表1●鉄道車両におけるSiCパワーデバイスの採用事例
(筆者作成)
時期鉄道車両用いられたパワーデバイス
(すべてインバーター装置にて利用)
2012年 東京メトロ  銀座線01系 SiCダイオード
2013年 東京メトロ  東西線15000系 SiCダイオード
2015年 小田急電鉄  1000系 SiCダイオードとSiCトランジスタ
2015年 JR東日本  山手線E235系 SiCダイオードとSiCトランジスタ
SiCダイオードとSiトランジスタ
2020年 JR東海  新幹線N700S系 SiCダイオード&SiCトランジスタ
(予定)

 自動車メーカーもSiCパワーデバイスの採用に積極的である(表2)。多くの自動車メーカーが2020年頃に発売が予定されるハイブリッド車や電気自動車のPCU(パワーコントロールユニット)にSiCパワーデバイスを搭載すべく開発を進めている。米カリフォルニア州による2018年以降の環境規制の強化(いわゆるZEV規制)がSiCパワーデバイス搭載車の増加を更に加速させることとなるだろう。

表2●自動車分野におけるSiCパワーデバイスの評価・実績例
(筆者作成)
時期メーカー名評価・実績用いられたパワーデバイスの構成
2014年トヨタ自動車プリウス試作車で5%の燃費向上を確認SiCダイオードとSiCトランジスタ
(PCUに利用)
2015年トヨタ自動車カムリ試作車で公道での走行試験を開始SiCダイオードとSiCトランジスタ
(昇圧コンバーターとモーター制御用インバーターに利用)
2015年トヨタ自動車愛知県豊田市内の路線バス(燃料電池車)で走行試験を実施SiCダイオード
(FC昇圧コンバーターに利用)
2016年ホンダ燃料電池自動車「CLARITY FUEL CELL」を発売SiCダイオードとSiCトランジスタ
(FC昇圧コンバーターに利用)
※量産車としては世界初