「絶縁」という言葉は、人間関係を含めてさまざまな局面で使われる。この記事における「絶縁」は、通信する2点間においてデータや電力信号を伝送しつつ、それら2点間に流れる電流を阻止することを意味する。絶縁は、センシティブな電子部品や人体への高電圧による被害を防止する。また、絶縁は、接地電位差が大きい通信リンクのグラウンドループを解消し、信号品質を維持する。
過去10年にわたって法律の改正が行われ、現在では、過酷な環境下で動作する機器には、データ伝送システムに対する絶縁が義務付けられている。その結果、従来のシングルチャネル絶縁型システムからマルチチャネル絶縁型アプリケーションへの移行が進み、新しい絶縁部品が市場に投入されるようになってきた。対象のアプリケーションには、通信/産業ネットワーク、医療用システム、センサーインターフェース、モーター制御/駆動システム、計装機器など、多岐にわたるデータ通信がある。
この記事では、データ伝送向け業界標準として、その地位を保っているRS-485に準拠した絶縁型デジタルインターフェースについて取り上げる。はじめにRS-485のコモンモード電圧範囲(CMVR:Common Mode Voltage Range)の定義を紹介し、次に、ローカル・コントローラー回路からトランシーバーのシグナルパスと電源パスを絶縁することによって、大きなコモンモード電圧からの保護を可能にする方法について解説する。そして最後に、GMR(Giant Magneto Resistance:巨大磁気抵抗)技術に基づく新しいRS-485アイソレーターが、さまざまな絶縁技術の中で優位であることを示す。
コモンモード電圧範囲は-7~+12V
RS-485規格では、コモンモード電圧範囲(CMVR)を-7Vから+12Vと規定している。図1はコモンモード電圧(VCM)を示しており、その中にはドライバー出力コモンモード電圧(VOC)、ドライバーとレシーバーグラウンド間の接地電位差(GPD)、伝送線上の結合ノイズ(VN)が含まれる。
ドライバーはVCM = VCC/2にあたるコモンモード成分を中心に対称差動出力(VD)を生成するので、ライン出力電圧はVA = VCC/2 ± VD/2、その補完出力電圧はVB = VCC/2 ∓ VD/2となる。
レシーバーは規定されたコモンモード電圧範囲内の差動信号のみを処理し、いかなるコモンモード成分も排除する。これを実現するのは、コモンモード信号と差動信号の両方を等しく減衰する内蔵電圧ディバイダーである(図2)。その後段の差動コンパレーターが2つの減衰された入力信号間の差分を形成するため、差動成分のみが増幅される。
電圧ディバイダーが各レシーバー入力とレシーバーグラウンド間のコモンモード抵抗(RCM)を配することから、データリンクの全コモンモード電圧はこれらの抵抗を通じて低下する。これは標準的なトランシーバーにとって、-7Vから+12Vまでの全コモンモード電圧範囲にわたる差動入力電圧の正確な検知が必要なことを意味する。
±25Vといった高いコモンモード電圧(VCM)に対応するために、ドライバー出力トランジスタのスタンドオフ電圧がより高く、また、レシーバー電圧ディバイダーのディバイダー比がより高くなるように、トランシーバーバスI/O段は再設計される。そこでは、より高い抵抗値が必要となり得る。数百ボルトの超高コモンモード電圧には、トランシーバーバス端子で高電圧を阻止するガルバニック絶縁バリアの挿入が必要である。