CAN(Controller Area Network)プロトコルを使えば、過酷な環境でも信頼性が高い通信システムを実現できる。30年以上も前から産業用電子機器や車載用電子機器で使われており、すでに数多くの実績を積んでいる。

 CANバスは、2線式のバスであり、マルチマスター/マルチドロップといったトポロジーに対応する。このため、システムへの機能追加を簡単に実現できるほか、配線(ワイヤー)数を大幅に削減できるというメリットがある。ポイント・ツー・ポイント・トポロジーでは避けられなかった、煩雑なワイヤーの取り回しというデメリットがない。

 すでに宇宙用電子機器の関係者は、CANプロトコルが持つ数多くのメリットを熟知しており、従来の衛星用バスアーキテクチャーと置き換えることの必要性を理解している。欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)は、CANバスの通信プロトコルを標準化するために「ECSS-E-ST-50-15C」と呼ぶ文書を作成した。

 これは、CANバスに関する標準規格である「ISO 11898-1/-2:2003」の拡張版に相当する。宇宙船やロケットなどの要求に応えるかたちで、シリアル通信とハードウエア接続用のパラメーターを新たに規定した。さらにESAは、宇宙船やロケットなどの通信/制御システムにCANバスを実装するために必要なハードウエアやファームウエア、ソフトウエアの開発を先導する役割も果たしている。

 今回の記事では、宇宙船や衛星、ロケットといった用途でCANバスを使用する際のメリットや技術的な課題について検証する。具体的には、CANプロトコルの基礎、衛星通信でCANバスを使うことで得られるメリット、放射線耐性を備えたCANトランシーバーICに求められる要件などを解説する。