多くの機器や機械が、コストを抑えるためにステッピングモーターを用いて設計されている。もしも、ステッピングモーターが静かで円滑に動作し、さらにエネルギー効率が高ければ、機器や機械のユーザーの使い勝手が向上する。この記事では、ステッピングモーターに最小限の回路を加えるだけで、新しい制御方法によってBLDCモーターに類似した高効率で円滑な動作が可能になることを示す。

 世界中で毎日使われているモーター駆動機構内蔵の電気機器は数百万台にのぼる。このような機器としては、多機能オフィスプリンター/スキャナー、現金自動預け払い機、POS端末、ミシン、さまざまな産業用機器などがある(図1)。一般にこれらの機器では、複雑なマイクロプロセッサーベースのドライバーなしで容易に制御できる低コストなステッピングモーターが利用されている。

図1●モーターを使う機器は多岐にわたる。
図1●モーターを使う機器は多岐にわたる。
ON Semiconductorの図。
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 実は多くの場合、ステッピングモーターは完璧なソリューションでも理想的なソリューションでもない。一方で、満足すべき多様な要件に最もよく適合しているソリューションと言える。ステッピングモーターからの可聴ノイズは、多数のモーターが同時に稼働するような場所では不快に感じることが多い。また、ドライバーは低回転速度のときにもそこそこの電力を消費する。これは一般的にエコ設計目標と相反するもので、ハンドヘルド機器の電池寿命を短くする恐れがある。さらに、全体的なエネルギー効率が低いために発熱量が大きく、場合によっては機器に冷却ファンを組み込む必要が生じる。そのためコスト、複雑さ、消費電力が増大し、システムの信頼性が低下する。

 ブラシレスDC(BLDC)モーターなどのほかのタイプのモーターは、このようなステッピングモーターの弱点を克服することができる。ステップフリー動作による静音かつ円滑な制御により、高効率、低消費電力、低発熱を実現している。

 一方で、BLDCモーターを使用すると、システム(機器)全体のコストが高くなるという課題がある。BLDCモーターの制御に、マイクロコントローラーで実行する複雑なアルゴリズムが必要なためである。さらに、ステッピングモーターをBLDCモーターに変更するには、制御ソフトウエアを開発するだけでなく、機械サブシステムを大幅に設計し直す必要がある。このため、開発プロジェクトのコストが大幅に増加し、市場投入までの期間が長引く恐れがある。また、設計が完了した後に、チームは時間をかけて長期信頼性データを収集しなければならない。