クラウドサービスは急速に成長しており、データセンターやネットワーキング、通信機器の技術的な進化をけん引している。IoTの普及に伴い、クラウドに接続されたインターネットプロトコル(IP)アドレスを持つデバイス(機器)の数は、すでに地球の人口を上回った。こうした成長は、増加の一途をたどるデータや動画を処理するサーバー、ストレージ、ネットワーキングスイッチに大きなインパクトを与える。例えば、インフラ機器はプロセッサー用電力とプロセッサーの数の面で限界に近づいてきた。消費電力を最小に抑えながら、いかに効率的にインフラ機器の給電と冷却を行うかが、電源回路設計者にとって重要な設計課題となっている。さらに、設計者は今日の先進的なプロセッサーやASIC、FPGAを使用する際に、熱と基板電源フットプリントの最適バランスを取る必要がある。

 この記事では、マルチフェーズ・コンバーター・アーキテクチャーの進化の過程を振り返るとともに、さまざまな制御モードスキームを比較する。また、「シンセティック電流制御」アーキテクチャーを活用した新しいクラスのマルチフェーズコントローラーについても解説する。この新しい制御技術は、電源回路におけるサイクルごとの電流バランシングと高速過渡応答を実現し、さらに、ゼロレイテンシーで個々のフェーズ電流の追従を可能にする。

マルチフェーズ電源の進化

 インフラ機器の機能強化に伴い、プロセッサー用の電力が増加している。サーバーやストレージ、ネットワーキング機器からなるデータセンターでは、プロセッサーとしてハイエンドマイクロプロセッサー(以下、CPU)やデジタルASIC、ネットワークプロセッサーが使われている。一方、通信機器を通じてデータセンサーとつながるエッジ機器、すなわちPOS機器やデスクトップPC、組み込みコンピューティングシステムでは、CPUやFPGAがプロセッサーとして使われている。こうしたプロセッサーICはすべて、デジタル処理のために同じような電源プロファイルを持っている。プロセッサーICは半導体プロセスの微細化によって集積したトランジスタ数が増加しており、現在、複雑さによって100~400A強といった高電流を必要としている。この傾向が長い間続く中、業界は複数の低電力相を束ねてデジタル負荷に供給することにより対応してきた。これにより、低電流時にはアイドルさせ、必要時にはフルパワーを供給することが可能になった。この解決手法はシステムのフレキシブルな電流供給という面では効果があるが、電源回路設計者に対しては新たな設計課題を突き付けている。課題の1つが、200A超のフル負荷電流の提供と熱管理である。さらに、100A超の大きな負荷電流ステップに対しても、1μs未満での対応が要求される。同時に、出力電圧も狭いレギュレーションウィンドウ内に収めておく必要がある。

 インフラ機器では、降圧型のマルチフェーズDC-DCコンバーターが一般に採用されてきた。これにより、例えば12V入力から1V未満の出力への降圧など、必要とされる電力変換を行っていた。大負荷電流の提供では、1つのパワーステージではなく、小さなパワーステージ(フェーズ)に負荷を分割するマルチフェーズ電源を採用する方が都合が良い。1つのフェーズで大電流を処理しようとすると、磁性物質やFETの設計のほかに、I2×Rに関連する熱の管理という技術的な課題が発生する。マルチフェーズ電源では大電流向けの単一パワーステージに比べて、効率が向上するとともにサイズやコストが低減する。この手法はマルチコアCPUによる作業分割と方向性が類似している。図1に150AをCPUに供給するための4フェーズを使うマルチフェーズ電源を示した。

図1:4フェーズを使用するマルチフェーズ電源
図1:4フェーズを使用するマルチフェーズ電源
(Intersilの図)
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