クルマの自動化が進むにつれて、電子システムの役割が広がり、今や車載電子システムは高級車だけの装備ではなくなってきている。ただし、電子システムにとって、自動車は難しい応用分野である。安全性が最優先されるにもかかわらず、稼働環境は過酷で、設置スペースが限られており、認定制度も厳格である。電子部品の正しい選定と配置に関する経験や実績が蓄積されることで、こうした課題への対応が進んでいく。

 車載電子システムの中でMOSFETは代表的な「駆動装置」と言える。ほとんどの車載電子システムで、モーターやソレノイドを駆動させるために、MOS FETは最少1個は使われている。MOS FETの用途は広く、それを効率よく高い信頼性の下で使うために、パッケージ技術が急速に発展してきた。

 以下、この記事では、まず、自動車エレクトロニクスの主要な用途と設計者が対応すべき課題をいくつか考察する(自動車用途で使うための条件を満たす部品の背後にある要求事項も含む)。その後、MOSFETの最近の進歩とその使用例に触れ、これらの進歩が困難な環境にまつわる要求事項にどのように対応しているかを説明する。

全半導体の10%が車載向け

 おそらく、多くの人の所有物の中で最も技術的に複雑な持ち物は、路上を走る自動車だろう。英PricewaterhouseCoopers(PwC)社の最新レポートによると、自動車向け半導体の売り上げは2016年で約374億米ドルであり、全半導体出荷額の10%を占める。

 自動車向け半導体の成長率は、新興経済国での旺盛な自動車需要と自動車内の電子部品の増加に後押しされて、9.4%にも達している。またPwCの分析では、現在、半導体が自動車の全コストの1/3を占めていることが明らかになっており、2030年までには全コストの半分になると予測される。

 自動車への応用先は大きく2つに分けられる。1つは既存機能の自動化。もう1つは先進技術による新機能である。現在では、ドアロックやミラー調整、窓操作、座席位置調整、サンルーフ操作などの基本的な機能は、温度調整システムの制御や換気と同様に、ほとんど電子制御になっている。数年前まではこれらの機能は、ケーブルやレバーを利用した機械システムで動作していた。

 技術が進歩し、自動車が周囲の環境をより細かく察知できるようになったことで、最新の運転者支援システムは、自動ブレーキや車線逸脱警告、適応走行制御などの機能を備えており、事故の発生可能性を低減している。自動車は、道路標識を読み取ったり、周囲環境と通信できるようになってきた。これには多くの国の主要道路に配備されている「スマートインフラ」が寄与している。