「パワーエレクトロニクス設計でつまずかないために(前篇)」ではパワーデバイスの特性評価の課題と解決方法について述べた。後編となる本記事では、スイッチング電源回路の設計手法を取り上げる。シミュレーターを活用して、設計品質を高め、手戻りを最小限にすることで、開発期間の短縮を図る。

 例えば、シミュレーションを活用することにより、設計の初期段階や基板設計の段階で、回路の動作を予測し、スイッチング波形を適切に制御することで、より高効率な電源を設計できる。また、回路から発生するノイズを予測し、発生原因の分析と対策が実施できれば、EMC対策に要する時間とコストの削減につなげられる。

スイッチング電源回路にはさまざまな課題

 スイッチング電源回路にはさまざまな課題がある(図1)。例えば、回路の小型化、電力の変換効率の向上と発熱の抑制、電子機器に装備されるワイヤレスコネクティビティー(Wi-Fi、Bluetooth、LTEなど)に影響を与えないノイズ特性などを挙げられる。

図1 スイッチング電源回路の例 
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図1 スイッチング電源回路の例 
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図1 スイッチング電源回路の例 
(図:キーサイト・テクノロジー)

 過渡的な応答に対する回路の安定性の確保も課題の1つである。FPGAやプロセッサーなどでは、内部の動作に伴って消費電流が大きく変動することがあり、基板を含めてスイッチング電源には優れた過渡応答特性が求められる。

 また、高電圧・大電力アプリケーションにおいては、前編で述べたように、SiC、GaNなどのパワーデバイスが使われ始めている。高速なスイッチングが可能になったことで、dv/dtあるいはdi/dtの大きなノードや経路が回路内に生じ、ノイズの原因になっている。

 こうした課題に対処するには、コントローラーICやパワーデバイスなどを適切に選定する、スイッチング周波数やゲートコントロール電圧のスルーレートなどの動作パラメーターを適切に設定する、レイアウト設計で寄生インダクタンスを制御する、といったことが鍵になるだろう。

 ただし、例えば受動部品の小型化を図ろうとスイッチング周波数を高くすると、今度はスイッチング波形の制御が難しくなり、大きなノイズの発生原因になる。最悪の場合は素子が破壊されてしまう可能性がある。また、スイッチング損失が増えて変換効率が下がってしまうなど相反する条件も多い。信頼性を保ちつつ要求スペックを満足することが重要だ。