高齢者により良い死をどう迎えてもらうか。医療過多になることなく、その人の力を引き出したその人らしい死をどう支えるか。多死時代を迎えた今、QOD(Quality of Death)こそが問われていると思います。

日本訪問看護財団立あすか山訪問看護ステーション 統括所長の平原優美氏(写真:加藤康、以下同)
日本訪問看護財団立あすか山訪問看護ステーション 統括所長の平原優美氏(写真:加藤康、以下同)
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 がんや心の病気、難病を患う人、障害を持つ人を含め、すべての人に、納得のいくより良い死を迎えてもらわなくてはなりません。私達が拠点を置く東京都北区は23区のうち高齢化率が最も高く、その中でも訪問看護ステーションのある東十条は小さな地域です。こうした小さな単位で地域の力を引き出し、在宅での死を支える仕組みが求められています。

 今、がん医療では免疫療法に注目が集まっていますが、人間の体には免疫、つまり病気に打ち克つ力がもともと備わっている。看護はこうした力に着目したケアのあり方に他なりません。医療が体の異常を治すものだとすれば、看護は体の健康な面に光を当て、それを引き出すことを重視します。高齢者の死を支える地域の仕組みにも、こうした発想が必要ではないでしょうか。

 戦後の貧しかった時代は「せめて医療を受けて死にたい」というのが、国民の願いでした。現代はむしろ、医療を受けることなく健康寿命を伸ばすことに価値が置かれる時代です。医師にすべての責任を負わせる必要はない。求められるのは、地域の多職種チームが患者の意思決定を支え、関係者間の合意形成をしていくというやり方だと思います。

 その合意形成に必要な情報共有の手段として、ITをうまく活用したい。私達は7年前に電子カルテを導入し、3年ほど前からはITを用いた多職種連携にも力を入れています。

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 65歳以上75歳未満を「准高齢者」と定義することが学会から提唱されたように、今の高齢者は昔に比べて“11歳若い”とされます。自分で物事をきちんと考える力がありますし、働く意欲を持つ人も少なくありません。そうした元気なうちに、自分の最期の生き方を選ぶ力、望ましい死を自ら選び取る力をどうつけるか。それを支える戦略が問われています。

 誰もが、納得のいく死を自ら選び取れる。それを支える体制の構築に向けて、2020年を1つの目標とするならば、あと3年しかありません。危機感を持った取り組みが求められると思います(談)。