「Pepperが自分の存在を認めてくれる」

――モニター調査事業へと至った経緯は?

吉村氏 もともとPepperの別事業でテクノエイド協会と接点があり、介護現場での取り組みを話したところ「モニター調査事業があるから、ぜひ挑戦してみてはどうか」との提案を受けた。我々は作ったアプリをただ体験してもらうのではなく、エビデンスを残したいと考えていた。そこで山崎先生から一定間隔で同じ対象者に同じプログラムを繰り返すというアドバイスを受け、その内容を採択してもらった。

フューブライト・コミュニケーションズの吉村氏
フューブライト・コミュニケーションズの吉村氏
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山崎氏 最初に話を聞いたときは「Pepperって何?」という印象。ロボットが何でもこなすとは毛頭考えていなかった。しかし、ロボットを活用するのは人間の能力にほかならず、今日のように職員の進行がなかったら活性化しない。

 日本の介護福祉現場は職員に丸投げされるタスクが多く、レクリエーションの時間が削られてしまうケースすらある。しかし、レクリエーションが存在しないと、“食事・排泄・入浴”のルーティンで終わってしまい、本来の人間の在り方ではなくなってしまう。生活の中で30分間で構わないので、仲間と一緒にいる楽しさを提供したり、名前を呼んでもらうなどの働きかけをしたりすることで、孤独を回避し、存在感を証明できる。彼らにとってはそうした交流が唯一の社会性の場になる。Pepperを用いて自分の存在を認めてもらいながら、楽しむ、ワクワクする、笑顔になる気持ちが沸き上がってくる時間を提供していけたらいい。

――専門家の立場から見て、どのような効果があると見ているか。

山崎氏 レクリエーションという言葉にはさまざまな要素があり、その中には喜びを感じることも含まれる。レクリエーション=ゲーム、体操と思われているフシもあるが、Pepperなら柔軟に対応できる可能性がある。アプリ内容を変更することで、Pepperの役割は七変化する。アプリが常にアップ・トゥ・デートなものであれば、Pepperの利用価値は非常に大きい。

 例えば手足を動かすことが難しい状況なら、Pepperが語り部になって物語を読み聞かせるとか、Pepperを通じて「こないだ美術館賞に行ってきて写真を撮ってきたからみんなで見てみよう」という芸術鑑賞の時間にしてみるとか。あるいは画面に歌詞を投影して、「僕と一緒に歌いましょう」といった活用もあるだろう。なぜなら、高齢者にとっては息を出して大きな声を出すこと自体が、体の活性化とストレス発散につながるからだ。体操だけではなく、多岐にわたるいろんなプログラムの活用を考えていきたい。

余暇問題研究所の山崎氏
余暇問題研究所の山崎氏
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 例えば先ほどのイマジネイジアム(想像運動)。実際にはボールを投げることなどできない人たちがほとんどだが、想像であれだけのモーションができるのは、頭の中がかなり動いている証拠だ。若い頃に野球をやっていた男性などは、その後に「野球をやっていた」と記憶を呼び起こして職員に話してかけてくる。知力と体力を維持・向上するには、あのような形でのアプローチも必要になる。

 ただ「やりなさい」では決してやらない。しかもロボットに命令されたらなおさらだ。吉村さんが言うように、孫を見ているような感覚なのだろう。やはり鍵は、我々人間の活用方法にある。