日本車メーカーでは、新しいプレーヤーとの協業を大々的に発表したのはホンダのみ。ホンダは米Google社傘下の自動運転事業会社Waymo社との提携を見据えるが、トヨタ自動車や日産自動車は自前でAIを含む自動運転技術技術に挑む。

 トヨタ自動車は、運転者の感情や好みを推定する技術を搭載したコンセプト車「Concept-愛i」を披露した(関連記事)。「最新のAI技術を応用」(同社)して実現する。今後数年内に、開発した技術の一部を搭載した実験車両を日本の公道で走らせる。ある程度の期間乗り続けることで車両を使いやすくできて、所有する価値を高める。

トヨタ自動車のコンセプト車「Concept-愛i」
トヨタ自動車のコンセプト車「Concept-愛i」
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 運転者の表情や動作、覚醒度などを数値化。SNSで発信した履歴や会話の履歴などのデータと組み合わせて、運転者の感情や嗜好をAI技術で推定する。運転者の覚醒度や疲労度を推定できれば、安全運転に役立てられる。例えば眠気が大きくて覚醒度が低いときは、青色の光や座席の振動などで交感神経を刺激する。一方で、気持ちを落ち着かせたいときは、暖色系の光やラベンダーの香り、ゆったりした音楽などで副交感神経を優位にする。さらに自動運転技術と組み合わせて、運転に不安を感じていると推定したときは「自動運転モード」に切り替える機能を開発する。

 車両と対話する機能も実現する。運転者の感情や覚醒度などに応じて関心の高い話題を提供し、会話を弾ませる。このほか感情推定技術と走行データを組み合わせることで、少し遠回りしてでも楽める走行経路を乗員に提案する機能も実現したい考えだ。

 コンセプト車のデザインは、米国のデザイン拠点であるCalty Design Reseach社が担当した。車両の内装から外装にかけて統一感のあるデザインにしたことが特徴である。トヨタがかねて説明する「クルマは“愛”がつく工業製品」(同社)という考えに基づいて開発した。運転者の嗜好を理解することで、「クルマをパートナー」(同社)のような存在にすることを目指す。

 トヨタ自動車で人工知能研究の子会社であるToyota Research Institute(TRI)社CEO(最高経営責任者)のGill Pratt氏は、「人を理解する」AI技術について説明した(関連記事)。車内で「人がどう過ごしているのか追求したいことが(開発の)起点」(Pratt氏)と語った。過ごし方に基づいて「乗員にとって一番良い時間を車内で提供」(Pratt氏)できれば、トヨタ車の価値を高められる。

 新開発のAIは、「ディープラーニング(深層学習)と既存の技術の組み合わせ」(Pratt氏)で実現したもの。深層学習によるAIの認識精度は、学習用データの量と質が左右する。乗員の音声や表情などのデータを多く集めて、「人を理解する」精度を高める。その結果を基に、乗員の車内における過ごし方を把握したい考えだ。

ホンダが出展した2人乗りの自動運転車のコンセプト「NeuV(ニューヴィー)」
ホンダが出展した2人乗りの自動運転車のコンセプト「NeuV(ニューヴィー)」
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 運転者の感情を推定する技術は、ホンダも開発している。ホンダが出展した2人乗りの自動運転車のコンセプト「NeuV(ニューヴィー)」も乗員の嗜好や感情を、AI技術で推定する技術を搭載する(関連記事)。2016年7月、ソフトバンクグループとAIの研究開発で手を組んだ。AI技術を使い、自動車が運転者の感情を推定することに加えて、自らが感情をもって対話する技術を目指す。ソフトバンクが開発したAI技術「感情エンジン」を使って実現する。