車に乗った人が歩く人より速く移動できるように、医師がAIを使いこなせば、より精度の高い診断をできるようになることは間違いない。医学論文をはじめとする文献を高速で検索・解析し、信頼度が高いセカンド・オピニオンを提示することにより、医師の診断をサポートする存在となるはずだ。

 特に、必要な情報がほぼ出そろっており、最終的に難しい診断を下さないといけないような局面で、AIは威力を発揮するだろう。見落としがないか、他に疑うべき疾患がないかを、網羅的にチェックしてくれるからだ。その意味では、大学病院などに所属する専門医が、最先端の医療現場でコンピューターとやり取りをしながら診断を進めていくような使い方が主流になっていくのかもしれない。

 ただしAIは、最終診断を担う存在にはなり得ないだろう。AIは、自らが下した診断に責任を取ることができないからだ。AIがいくら進歩しても、最終診断には医師が責任を持つという図式は変わらないだろう。

  年代的なことを言えば、既に50歳を過ぎた医師であれば、今後もAIに触らず逃げ切ることは可能かもしれない。しかし40歳代以下なら、AIとの付き合いを避けることはできないのではないか。

人口減で夜勤者がいなくなる

 AIの医療・介護分野への貢献について私は、上に挙げたような診断のサポートの他にも、介護業務の効率化という面でのインパクトが大きいと考えている。

 今後、日本の人口は減少し、2010年に9700万人だった64歳以下の人口は、2040年には6700万人になると予測されている。だが、高齢者の数はあまり減らないため、それを支える人手が足りなくなる。特に問題となるのが、介護現場で夜勤を担う職員の不足だ。

 その問題の解決に向けて現在、私が注目し期待しているのが、要介護者をモニタリングするセンサーとAIとを結び付ける試みだ。

 今のセンサーは性能が向上しているので、単に要介護者が動いたことを知らせるだけでなく、その際の画像を送ることもできるようになっている。そうした画像を1万例ぐらい集めて、それぞれについて介護職員が居室を訪ねる必要があるかないかをAIに学習させると、本当に対応すべき少数のケースが分かるようになる。そうなれば、1時間に1回などの定期的な見守りも必要なくなり、介護職員の業務軽減が図れるわけだ。