AIは今後、人が欲しいと思った情報をすぐに使える形で示してくれる、便利な参考書になる。日常診療の中で、常に医師に寄り添うシステムとして、医師に新たな気づきを与えてくれる存在になると私は捉えている。

 医師による医療行為は、知識だけではなく、経験による裏付けがあるからこそ行える。例えば、3年目の医師が遠隔地で診療をしていて、AIに「中心静脈を確保して、ドパミンを5γで投与することを推奨する」と言われたとしても、過去に中心静脈を確保した経験がなければ処置を失敗するリスクを鑑み、他の選択肢を探したくなるだろう。今まで使ったことがない薬剤の投与をAIに推奨されたとしても、その判断が本当に適切なのか疑いたくなるはずだ。

 知識がどんなに容易に得られるようになっても、診療や治療には何よりも経験が物を言う。経験したことのない医療行為にやすやすと踏み出せる医師は多くない。AIが診療現場で使われるようになっても、今の診療スタイルは大幅には変わらないだろう。

 不確実性から逃れられないのが医療だ。典型的な症状を来している患者であれば、AIは高い精度で正しい診断や治療方針を示せるかもしれない。だが、どんな疾患でも非典型例はあるものだ。また、患者が来院したときの病期や患者固有の症状の経過により、治療方針の組み立て方は異なる。そう考えると、AIが必ず100%正しい結果を出せるとは思えない。

特徴に応じて使い分ける未来に

 また、勉強が得意かどうかは人によって異なるように、AIも学習の内容やその学習方法次第で、役に立つものとそうではないもの、判断の精度が高いものと低いものができていく。当然ながら学習したデータの量や質、偏りの有無によっても得られる結果の精度は変わる。

 検査機器と同様に、使用するシーンによって感度と特異度のバランスを変更するなど、複数のAIを使い分けるようになるかもしれない。いずれにしてもAIが示す結果はあくまで参考値であり、医師が改めて診断や治療方針を考え、判断するという流れは変わらないはずだ。