AIに関する様々な報道がされ、関心や期待が高まっている。だが、米IBMが開発しているAIのWatsonを使って研究をしている立場からすると、診療現場での実用化にはまだ課題が多いと感じている。

 私たちの研究グループは、癌患者の検体からゲノムDNAを抽出して、癌の発生や増殖に関与していると考えられる遺伝子変異(ドライバー遺伝子変異)を探し、その結果を主治医に伝え、診断や治療の判断に活用する「臨床シーケンス」に取り組んできた。

 AIでの解析を始めて驚いたのは、結果が示されるまでの時間の短さだ。これまで医科研で独自に開発した解析手法を使って取り組んでいたときには、ドライバー遺伝子変異を見つけるまでに週単位の時間が掛かっていた。それが、Watsonを用いれば約10分で結果が示される。初めて診療に生かせる結果が示されたときには非常に驚いた。AIが大きな可能性を秘めたツールであることは間違いない。

より深く広い学習で高精度に

 Watsonが何を学習しているかは公開されていないが、現時点で遺伝子変異のリストから示せる治療法の選択肢は、分子標的薬のみ。ある遺伝子変異があればこの薬剤が高い効果を示すというように、対応関係が明確なものだけが示され、増殖する細胞を非特異的に傷害する抗癌剤や造血幹細胞移植は示されない。