救急医療という「時間との戦い」に、スマホアプリとAIで挑む。東京慈恵会医科大学先端医療情報技術研究講座准教授で脳神経外科医の高尾洋之氏は2016年11月から、そんなプロジェクトを主導している。

 救急現場は「患者の身に起きたことやその場の状況を、正しく把握して伝えることが難しい」(高尾氏)。そこでスマホアプリとAIを使い、救急搬送中の患者の容体を素早く的確に共有し、治療始までの時間を短縮することで、救命率の向上や後遺症の軽減を目指す(図8)。2017年度に臨床研究を始め、2018年度には実際の救急現場への導入を見込む。

図8 AIを活用した救急医療支援システムの概要(取材を基に編集部作成)
図8 AIを活用した救急医療支援システムの概要(取材を基に編集部作成)
救急車から患者の問診結果やバイタルの情報がAIに送信されると、患者の状態を解析し、受け入れ医療機関の選定結果を返信。同時に患者の状態は受け入れ施設に送信される。それにより救急車到着前に必要な情報などを医師が把握できる。
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 この仕組みでは、AIが問診やバイタルサイン測定から得られた情報を解析し、トリアージを実施。その結果を基に、医療機関の受け入れ体制なども考慮した上で、搬送先を素早く選定できるようにする計画だ。

 高尾氏は2015年に慈恵医大グループへの3000台を超えるiPhone導入を指揮した経験を持ち、医療の情報化に詳しい。今回は、ベンチャー企業のアルム(東京都渋谷区)と共同で開発したスマホアプリ「Join」を、AIと組み合わせた形で活用する。

 Joinは複数の医療関係者間でコミュニケーションを取るためのアプリ。スマホでリアルタイムに会話ができるチャット機能を持ち、X線CTやMRIなどの医用画像、心電図や手術室内の映像も共有できる。