「患者が診察に来た時に得られるデータだけでは分からないことがある」。慶應義塾大学循環器内科特任助教の木村雄弘氏は日々、患者と向き合う中でそう実感している。診察日と診察日の間、患者の日常生活時のバイタルサインや自覚症状はどう変化しているのか。そこにこそ、循環器疾患を適切に診療するための重要なヒントが隠されているという。

 この見えざる患者の姿を、身近なデジタルツールで把握できる時代が近づいてきた。その代表格がウェアラブル端末。体に装着するだけで心拍や活動量、睡眠状態などを連続的に測定できるデバイスだ(図7)。

図7 ウェアラブルデバイスを用いた常時遠隔モニタリングの概要(取材を基に編集部作成)
図7 ウェアラブルデバイスを用いた常時遠隔モニタリングの概要(取材を基に編集部作成)
診察日以外の患者の様子を常にモニタリングし、異常を検知したらアラートを発信して医師が状態を確認し、必要に応じて服薬指示などを行う仕組み。データ量が膨大になるため、AIの活躍が期待されている。
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つぶやくだけで自覚症状を記録

 これまでウェアラブル端末は、あくまで普段の健康管理に使うものと考えられてきたが、いよいよ診療に活用しようという動きが出てきた。その1つが木村氏のグループの取り組み。2016年11月、腕時計型端末のApple WatchとiPhoneを実地診療に利用するための臨床研究を開始した。

 高血圧や不整脈、心不全などで通院している患者にApple WatchとiPhone、家庭用血圧計を貸与。患者が自宅で測ったデータを医師が遠隔で見られる仕組みを整えた。そのデータを医師が閲覧し、診察日以外の患者の状態を把握して診療に生かす狙いだ。まずは65歳前後の約20人の患者が研究に参加する。

 Apple Watchは心拍数のほか、消費カロリーや起立時間などを測定できる。音声認識機能を備え、「血圧は上が130、下が80」「体温は36.5℃」などと端末に向かって声に出すと、それらが血圧や体温の値として認識され、記録される。「動悸がする」といった自覚症状の訴えも記録でき、メモ代わりになる。