阿智村が誇る「日本一の星空」
阿智村が誇る「日本一の星空」
長野県下伊那郡阿智(あち)村。長野県南部、中央アルプスの南端、岐阜県との県境に接する人口約6500人の小さな村に今、観光客が押し寄せている。お目当ては自他共に「日本一」と認める星空。スキー場で星空を楽しむ「ナイトツアー」が評判を呼び、来村者の数はここ数年で急激に増えている。この10年、村の観光の中心だった温泉地を訪れる観光客の減少に悩んでいた村に何が起こったのか。星空という全く異質の“武器”の投入が、地域経済全体に活性化という好循環を生み出すまでの紆余曲折を、仕掛け人が語る。(編集部)

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 阿智村の昼神温泉は、1973年に発見された比較的新しい温泉だが、中京圏からのアクセスの良さという立地も相まって、南信州最大の温泉郷として高度経済成長期から長年栄えてきた村の観光の中心地だった。ところが、バブル崩壊後の景気低迷のあおりを受けて、需要が停滞。2006年ごろからは、来訪する観光客自体が少しずつ減る状況に陥っていた。

 観光の中核である昼神温泉の衰退は、阿智村そのものの観光業の衰退を意味する。私が経営する阿智村のスキー場「ヘブンスそのはらSNOW WORLD」にも当然、影響は及ぶ。昼神温泉の状況を何とか改善したいというのは、阿智村で観光業に関わる者なら誰もが共通に抱いた思いだった。

阿智昼神観光局代表取締役社長の白澤裕次氏
阿智昼神観光局代表取締役社長の白澤裕次氏(写真:上野英和)
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 昼神温泉エリアサポートという第三セクター企業が2006年に村主導で設立されたのはそのためだ。現在は、阿智昼神観光局となったこの組織がまず始めたのは、昼神温泉を“全国区”にする取り組みだ。まずは泉質の良さや旅館など宿泊施設の新しさを徹底的にアピールして観光客を増やそうとした。

 しかし、ハードルはあまりに高かった。なぜなら、全国には昼神温泉よりも大きくて有名な温泉地がいくらでも存在するからだ。圧倒的な規模や歴史を持つ温泉地と正面から戦うのは、現実的ではなかった。

 そもそも、昼神温泉の観光客が減っていたのは、ほかの温泉地に奪われていたからではない。温泉そのもののマーケット縮小の影響も大きい。今後少子高齢化が進み、日本の人口がどんどん減っていけば、マーケット縮小の動きは加速するだろう。これまで昼神温泉を支えていた観光客のほとんどを占めるシニア世代が元気な間はともかく、その後のことも考えるべき時期が来ていた。