「社長の心にハマる仕組み」

 経産省が「社長の心にハマる仕組み」として創設したのが、健康経営銘柄だ。反響は同省の予想以上で、「翌日から主に2番手格の企業から問い合わせの電話が殺到した。第2回の説明会は東京証券取引所のホールが満員になり、立ち見も出た。第3回の説明会は2度に分けて開催した」ほどだ。

 合わせて、健康経営銘柄は各業種1社だけを選ぶが、「2番手以降の企業にも引き続きモチベーションを保ってもらえるよう」、健康経営優良法人認定制度も創設。結果を社長室にそのまま提出できるような1枚の資料にまとめるなど工夫している。制度の開始以降、経産省には健康保険組合から感謝の電話が入るようになったという。「組合長さんが初めて社長室に呼ばれて『うちの社員の健康はどうですか』と聞かれたという話も。健康と経営が初めてつながったのではないか」。

 中小企業にとっては、「ホワイト」と認められるか「ブラック」とみなされるかは、求人に多大な影響が出るため、重要な問題になっている。「今、就職活動をする学生たちの親の中には、バブル景気の売り手市場を経験しているだけに、わが子が中小企業に就職するのを良く思わない人もいる。そんな親にも『ホワイト企業』という触れ込みは響く」。経産省では、中小企業向けに「健康経営ハンドブック」を1万冊以上配布。健康経営アドバイザー制度も設置した。

 健康経営企業の顕彰のほかに、経産省が力を入れているのが、IoTに基づくEBH(Evidence-Based Healthcare)。糖尿病の予備群に対策を打つため、「社長を口説いて会社でやってもらった」。HbA1cが5.6以上の1000万人、6.5以上の40万人をターゲットに、対象者がウエアラブル機器を装着し、活動量や体重、血圧などのデータを経営者と医師に共有し、数値が悪くなったら注意を促すというもの。「この人たちの重症化を止められたら、医療費はぐっと抑えられる」。参加者は約860人だが「3カ月程度で体重が12キロkg減った人も。平均で3~5kg減量できており、効果を実感している」とした。