「医療でICTを有効活用するには、今までの運用をゼロベースで考え直す必要がある」――。第35回医療情報学連合大会(第16回日本医療情報学会学術大会)において、インテル、日本マイクロソフトが開催したランチョンセミナーに社会医療法人緑泉会米盛病院の看護部長である菊地雅文氏が登壇。病院内のコミュニケーションのあり方など、看護師の立場から見たICT利活用のあり方を発表した。

社会医療法人緑泉会米盛病院 看護部長の菊地雅文氏
社会医療法人緑泉会米盛病院 看護部長の菊地雅文氏

 菊地氏は、病院内のコミュニケーションにはICTの管理対象になっているものと管理対象外になっているものがあるという。管理対象となっているのはルール化、定型化されたもので、電子カルテシステム、オーダーリングシステム、部門システムなどで処理される。これには日々の業務に必要な引き継ぎ、日報、月報なども含まれる。一方、ICTの管理対象外となるコミュニケーションには、朝礼時の申し送りなどの非定型のコミュニケーションがある。

 菊地氏は、病院における日々のコミュニケーションを「情報共有の範囲」と「情報伝達のスピード」という2つの軸で整理、それぞれに適したツールを提示した。例えば、「共有範囲が狭い」「伝達スピードが速い」コミュニケーションには1対1の会話があり、米盛病院ではPHSが使われている。一方、「共有範囲が広い」「スピードが遅い」には組織外へのアナウンスがあり、通常はホームページが使われている。ただし、ツールとツールの間には不足する部分が残っており、ユーザーはその部分を別のツールやアナログな手段を使って回避している。

 例えば、米盛病院では電子カルテシステムの導入直後、看護師はベッドサイドで紙にメモした患者の情報をナースステーションに戻ってからデータ入力していたため、かえって作業量が増えてしまっていた。そこでWiFi接続したノートパソコンを使って、患者のベッドサイドでデータを入力する形態に切り替えようとしたが、当初はなかなか切り替えが進まなかった。慣れ親しんだ紙のメモを捨ててしまうことに、どうしても不安があったためだ。

 このほか、組織横断的なコミュニケーションも運用が難しい。例えば、患者からのクレーム情報は法的には保存義務がないが、病院全体のサービスレベル向上のためには保存しておきたい。これを、関係するメンバーがどうすれば効率的に共用できるか、ツールを含めて考える必要があるという。