「関連学会間の連携と多領域の専門家による臨床研究体制を構築・実施し、エビデンスを蓄積して制度整備につなげていきたい」――。

 2016年11月10日に安倍晋三首相が開催した未来投資会議(首相官邸ページ)で、首相自ら推進に関して言及したことが話題となっている「遠隔診療」。制度改正・整備の中心となる厚生労働省医政局 研究開発振興課 医療技術情報推進室の吉村健佑氏は、「第20回 日本遠隔医療学会学術大会(JTTA 2016)」(2016年10月15~16日、主催:日本遠隔医療学会)の精神科遠隔医療分科会で、遠隔医療の政策動向に関して冒頭のように述べた。

厚生労働省の吉村氏
厚生労働省の吉村氏
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 日本の遠隔医療は、遠隔病理診断と遠隔放射線画像診断の領域では既に歴史もあり、発展してきた。一方、国際的には遠隔精神(Telepsychiatry)、遠隔皮膚(Teledermatology)の領域が先行しているとし、「国際社会の中で日本も遠隔診療を推進していることを示す意味でも、厚生労働省としても学会との協力体制で、この領域への普及を進めていく」という考えを示した。

 遠隔医療の普及・推進向けた国の政策には現在、主に次の4つがある。すなわち、(1)遠隔診療の要件の明確化(遠隔診療と医師法との関係の明確化)、(2)インセンティブの付与(補助事業、保険適用)、(3)医療従事者のリテラシー向上(遠隔医療に関する知識・技能修得)、(4)遠隔診療の有用性の評価(厚生労働省科学研究の実施)、である。

 吉村氏は、特に2016年度予算案に盛り込まれている遠隔医療設備整備事業に関して、「地域医療の充実のために補助事業が必要であるという考えの下に支援を行っている」と語る。その上で、「医療提供体制など地域それぞれの課題において、遠隔診療がどのような役割を果たせるか、提供側・需要側のメリットも考慮しながら具体的に研究を進めていくことが重要」だと指摘した。

厚生労働省の遠隔医療推進ロードマップ
厚生労働省の遠隔医療推進ロードマップ
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 吉村氏は、遠隔診療推進に向けた取り組みに関して、遠隔医療設備整備事業や従事者研修事業が実施・継続されている一方で、適用されている分野が限定的であり、これをどのように拡充していくかが課題だとも指摘する。「そのために(在宅診療や遠隔モニタリングなど新たな評価・技術の実現に向けた)様々なロードマップをつくり、医療現場へのさらなる普及を図るためにICTも活用した地域包括ケアの推進というところにつなげていきたい」と述べた。