クリニカルパスと電子カルテの分析で最適な医療を提供する――。「デジタルヘルスDAYS 2016」(2016年10月19~21日、主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)のカンファレンスでは、医療法人静心会 桶狭間病院 藤田こころケアセンター 理事長・院長の藤田潔氏が、ITを活用した精神科医療の多職種連携について講演した。

講演する藤田氏
講演する藤田氏
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 精神科医療の現状を見てみると、入院した患者のうち3カ月以内に退院するのは約6割、1年以内でも約9割で、残りの1割が1年以上の長期入院ということになる。一方、長期在院者の退院者数は年間約1万人だが、新規の長期在院者も1万人ずつ増えているため、その総数はほぼ変化なく推移している現状にある。

 このような状況に対して、当然ながら国は長期在院者を減らしたいと考えている。そのため、3カ月以内に退院する患者の割合を7~8割に高めたり、1年以内の退院を95%に高めたりすることで、長期在院者の増加を抑えようと試みている。例えば、2012~2014年の第3期障害福祉計画(都道府県)では、「1年未満の入院者の平均退院率を上げる」「5年以内かつ65歳以上の退院者数を増やす」など、病院からの退院に関する明確な目標値を設定した。

 また、これを受けて厚生労働省でも、長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的な方策にかかわる検討会を実施。長期入院精神障害者の地域移行を進めるための「退院に向けた意欲の喚起」や「外来移行時の支援」、医療の質を向上させて退院を促進する「病院の構造改革」などについて話し合われた。

 このような背景から、精神科医療の動向としては「今後、病院から地域医療への『地域移行』が本格的に進められる」ことが予想される。そのなかで「精神科病院は、院内・院外の両面において大きな改革が求められる」と藤田氏は見ている。

 今後、起こりうる変化として挙げられるのは「『早期退院』を前提とした診療報酬制度の改定」。これに対して病院内では「早期退院をベースとした院内体制・オペレーションの確立」が必要となる。また、院外でも「地域移行が進むことによる地域側の負担増加・スキルギャップなどの解消ニーズ」が変化として生まれる。これに対しても、病院では「退院後の再発防止に向けた地域との連携強化」が必要になると、藤田氏は注意を促す。

 ただし、現状では精神科医療の連携にはさまざまな問題がある。例えば、自己完結型の医療機関が多いため、経営母体が異なる医療・介護系の情報共有はひと筋縄ではいかない。また、従来の情報連携はリアルタイムではないほか、Twitterなどの一般的なSNSは医療連携で利用できないというハードルもある。

 そこで愛知県では、この問題を解決する仕組みとして「電子@連絡帳」というシステムを導入した。この電子@連絡帳は、さまざまな機関が患者の情報を書き込める医療特化のクラウドサーバー。電子カルテを閲覧することはできないが、それ以外の必要な情報を医療機関だけでなく訪問看護ステーションや介護施設、行政なども閲覧できる。もちろん、地域包括ケアシステムに関係する情報を書き込むことも可能だ。しかもこれらの情報は「パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレット端末でもチェックできる」(藤田氏)。

 この電子@連絡帳をさらに活用するため、藤田氏の桶狭間病院では、電子カルテのサーバーと電子@連絡帳のサーバーを中間サーバーを介して接続。これにより、相互の情報共有を強化している。また、これに合わせて電子カルテをインターネット経由で院外でも利用できるように設定。訪問診療や訪問介護に際して、タブレット端末で電子カルテをその場で確認・入力できるようになっている。

 さらに、桶狭間病院では「クリニカルパス」も導入している。クリニカルパスは、治療や検査、リハビリなどの実施内容や手順などをスケジュール表にまとめ、医療の質向上や効率化をはかるもの。桶狭間病院では、これを精神科医療に用いている。

 藤田氏によれば、クリニカルパスの導入によって桶狭間病院では「統合失調症の入院患者の平均在院日数が、70日から48日に短くなった」とのこと。また、気分障害の入院患者の平均在院日数には大きな変化が見られなかったが、「在宅期間や再入院率には改善が見られた」そうだ。