毎日400万回もの“対面接点”を生かし、地域の見守りや買い物支援を行う。「デジタルヘルスDAYS 2016」(2016年10月19~21日、主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)のカンファレンスに登壇したヤマト運輸 営業推進部 部長の秋山佳子氏は、同社が持つインフラ/組織力を活用した社会貢献の取り組みについて講演した。

 ヤマトグループでは現在、2019年の創立100周年に向け、長期経営計画「DAN-TOTSU経営計画2019」を2011年4月から推進中だ。この計画の中で海外事業の強化や、商品・サービスの進化と並び掲げているのが「地域活性化ニーズへの対応」である。

秋山氏
秋山氏
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 「プロジェクトG」(Gはガバメントの意味)と名付けたその取り組みは、「ヤマトグループの経営資源や仕組みを活用しながら、地方自治体や行政と連携を図り、その上で地域における社会的課題を解決していく」(秋山氏)というもの。課題解決を通じて持続的に地域と発展するとともに、社員がいつまでも誇りを持って働けるような環境整備を目的としている。

 社会的課題として見据えたのが、少子高齢化による高齢者の現状だ。独居高齢者の増加、公共交通機関の廃止による“足不足”、地域商店街の疲弊など課題は多い。こうした状況を少しでも改善するため、グループ中核のヤマト運輸が軸となり、行政と連携しながら実際にさまざまな支援を進めている。「安全・安心に暮らせる生活環境の実現と、地域経済の活性化を目指す。そのために我々の経営基盤を使って支援モデルを生み出そうと考えている」(秋山氏)。

 基盤となるのは全国津々浦々に張り巡らされた強力な人的ネットワークだ。2015年春時点の数字として、ヤマト運輸のセールスドライバー(以下SD)は約6万人、主力サービス「宅急便」の取扱店数は約23万店、車両数は約4万4千台。「SDが毎日どこかでお客様と接している。その数は平均して毎日400万回。このリアルな接点の強みを生かしていく」(秋山氏)。

 日経デジタルヘルスでもたびたび報じてきたように、ヤマト運輸では積極的に地方自治体と連携協定を結び、見守り支援、買い物支援、イベント支援、災害支援、観光支援などで相互に協力している。2016年9月末時点の数字で、協定締結数は317件、総案件数は約1600件、運用中の案件数は485件にも及ぶ。最近トライを始めた例としては、「地域のバスや電車を使って、乗客と一緒に荷物を運ぶ客貨混載」(秋山氏)もある。

 続いて秋山氏は3つの具体例を紹介した。第1が2012年から開始した高知県大豊町における見守り支援を兼ねた買い物支援。高知県の山間部に位置する大豊町は人口4000人足らず、うち65歳以上の高齢者人口比率が50%を超えるいわゆる「限界自治体」であり、世帯数の約4分の1を独居高齢者世帯が占める。

 多くの高齢者が町に出ることもままならない中、ヤマト運輸では地域商店街と協力して買い物支援を実施。高齢者が電話やFAXで商店に商品を注文し、商品の運搬・集金をヤマト運輸が代行する仕組みだ。そして商品を届けた際、声がけをしながら見守りを実践する。もし利用者の体調に不調が見られた場合などは、SDが行政側に連絡する。

 「利用者からは、顔なじみのSDが見守りも兼ねて来てくれるので安心できる、タクシーを使わなくても買い物をできるようになったので楽になったという声をいただいた。また行政側からは、タイムリーに高齢者の情報を知ることができるので感謝されている」(秋山氏)。