大企業とヘルスケアベンチャーの“共通言語”を探せ

MSD「ヘルステックプログラム」から見えてきたこと

2016/10/20 21:28
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 大手企業とベンチャーが互いの“文化”の違いを乗り越え、イノベーションをともに生み出していく。その成功のための条件を、両者が腹を割った率直な言葉で語り合う――。

 「デジタルヘルスDAYS 2016」(2016年10月19~21日、主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)の会期2日目のオープンシアター。「製薬会社MSDとヘルスケアスタートアップの超連携事例」と題するセッションでは、そんな光景が繰り広げられた。製薬大手のMSDと、同社が2016年2月に立ち上げた「ヘルステックプログラム」で支援するヘルスケアベンチャー3社が登壇(関連記事1)。これまでに実施したメンタリング(対話を通じた育成支援)の内容などを紹介した。

3氏が登壇
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 MSDからは、ビジネス イノベーション グループのLahoti Gopal氏が登壇(関連記事2)。ベンチャー側からは、ミナカラ 代表取締役 薬剤師の喜納信也氏、エクスメディオ 代表取締役社長の物部真一郎氏、認知症総合支援機構 代表取締役社長の安部一真氏の3氏が登壇した。

 ミナカラとエクスメディオは、遠隔医療分野のサービスを展開するベンチャー。ミナカラは、薬剤師が処方薬を自宅に届けてくれる「おくすり宅配サービス」や、体の悩みや薬のことを医師や看護師に相談できるWebメディア「ミナカラ」を手掛ける。エクスメディオは、医師同士をつないで互助を支援するサービスを提供中だ。皮膚疾患診療支援のための「ヒフミル君」や、眼科疾患診療支援のための「メミルちゃん」がある。

 認知症総合支援機構は、“認知症を怖くない病気に”することを掲げるベンチャー。認知症対策のためのITシステムを医療機関に提供したり、自治体向けに認知症対策の環境構築を支援したりしている。

大企業側にも「新たな発見」

 最初に登壇したミナカラの喜納氏は、ヘルステックプログラムのメンタリングが有益と感じた点について「サービス立ち上げ後すぐに相談ができた上に、既存事業と将来事業の内容をともに精査できたことが大きい。MSDからは意思決定できる経営陣のコミットがあったため、スピード感もあった」と話した。

 ミナカラとの共同作業では、MSDにとっても得るところが大きかったという。医薬品に関し、一般消費者の間にどのようなニーズがあるかなどをウェブで調査することで「かなり面白いfinding(発見)があった。製薬企業はもっぱら“病気になった後”を対象としてきたので、(健康な)一般消費者がどのようなことに困っているかなどを知ることができたのは、とても勉強になった」(Gopal氏)。

 続いて登壇したエクスメディオの物部氏は、ヒフミル君のValue Up(価値向上)手法に関するメンタリングを4回にわたり受けたことを紹介した。メンターは、MSDのMR経験者や薬事部門経験者が務めた。メンタリングでは「1人のMR(経験者)と話すだけでも、とても幅広い医師の知見を得ることができた」と同氏は語る。

 この協業が後押しする形で、エクスメディオはさまざまな診療科の医師が治療方針などについて相談し合える、知恵袋サービス「クスリバ」を新たに開発。2016年10月にサービスを開始した。

パッションこそを見よ

 認知症総合支援機構は、事業戦略全般のほか、「薬局」に着目したサービス開発に関するメンタリングを受けた。薬局は「地域のよろず窓口的な機能を持ち、住民が気軽に立ち寄れる。認知症に関する検査を薬局の薬剤師に担ってもらうようなサービスの機会を探りたい」(同社の安部氏)との思いにMSDが応えた。

 両社のディスカッションは既に具体的な成果を生んでおり、調剤薬局チェーンの総合メディカルと認知症総合支援機構の協業につながった。総合メディカルの店舗を使い、MCI(軽度認知障害)の検査を薬局で行う実証実験を行った。

MSDのGopal氏
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 講演に続くQ&Aセッションでは、MSDのGopal氏がヘルステックプログラムへの参加を通じて得たことや苦労したことを3氏に問いかけた。各氏のカラーがよく表れたのは「大企業(とのコラボレーション)に求めることは?」との問いかけに対する答えだ。

 ミナカラの喜納氏は「協業を通じて互いがキャッシュフローを生みだすことが大切。それがM&Aなどの動きにつながる。お金のことを腹を割って話すことは重要だと思う」と語った。「医療はいわば社会のインフラ。Facebookがコミュニケーションのインフラとして機能しているように、医療分野でも社会のインフラに近いものを大企業との協業から生みだしたい」(喜納氏)。

 エクスメディオの物部氏は、この分野の活性化に向けて、ヘルスケアベンチャーを「どんどん買収してくれる大企業」の登場を望んでいるという。企業が投資先などを探す際の資料となる「銀行のリストに、ベンチャーは載らない」(物部氏)とし、ベンチャーに関する情報をどん欲に集める必要性を訴えた。

 認知症総合支援機構の安部氏はこう語り、会場を沸かせた。「大企業から見ると、ベンチャーの人間の言動や服装は“失礼”かもしれない。だが、ベンチャーには事業へのパッションで生きる人間が集まっている。良い化学反応を生み出すためにも、ぜひ我慢強く我々と付き合ってほしい」。