製薬企業は「地域医療のハブ」を志す

MSD執行役員の諸岡氏が講演

2016/10/20 02:10
大下 淳一=日経デジタルヘルス

登壇した諸岡氏
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 地域包括ケアの時代に、製薬企業が求められる新たな役割とは何か――。MSD 執行役員 医薬政策部門統括 兼 社長室長の諸岡健雄氏は、「デジタルヘルスDAYS 2016」(2016年10月19~21日、主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)の開催初日のカンファレンスに登壇し、「地域医療の環境変化とMSDの取り組み」と題して講演。医療提供体制の変化が製薬企業のビジネスに与える影響や、それを見据えた同社の取り組みを語った。

 諸岡氏はまず、日本の人口が減少局面を迎えたことや人口構成の変化を背景に、国内医薬品市場の成長が飽和しつつあると指摘。「すでにピークアウトしたか、近い将来に(ピークアウト)する可能性が高い」とした。製薬企業にとっては「医薬品以外のサービスにも取り組まなければ、大きな成長を見込めない」状況だ。

 今後、製薬企業に大きな影響を与えると予想されるのが、急性期を中心とする病院から地域・在宅へ、という医療提供体制の比重シフト。製薬企業の主戦場である病院という場に加え、今後は退院後に「地域に戻って医療・介護サービスを受ける人に対し、何かできるかを考える必要がある」。製薬企業にも、人々の“日常”を支えるヘルスケア企業としての側面が強く求められるようになる。

「意思決定の多様化」を支える

 地域医療をめぐっては、製薬企業の戦略に影響を及ぼす環境変化がまさに起こりつつあるという。キーワードは「機能分化」と「ネットワーク化」だ。

 地域医療を担う施設の機能分化が進めば、患者の流れが変化し、製薬企業にとっての「コンタクトポイントも変わる」と諸岡氏は見る。機能分化は医療従事者間にも起こり、薬剤選択など、現場での意思決定が「重層化、分散化、多様化してくる」。従来、病棟での業務にはコミットできなかった薬剤師が、診療報酬改定(病棟薬剤業務実施加算)を背景に、診療における意思決定にも関与するような流れがその1つだ。さらには、ネットワーク化に伴って地域医療の標準化が進むと、医療機関の統合や連携が促され、「地域で使用される医薬品の統合・集約が起こる可能性がある」。

 こうした形での地域医療の中心的な役割を果たすのは、患者に合わせた意思決定が「どこででもできる情報共有のプラットフォーム」だと諸岡氏は指摘する。この観点から同社は「情報プラットフォームをハブとした(地域医療における)共有の取り組みを支援していく」という。

 こうした情報プラットフォームの構築に寄与するとMSDがにらむのが、ITを活用したヘルスケア(ヘルスケアIT)である。日本におけるヘルスケアITの産業規模は、米国に比べてずっと小さい――。諸岡氏はそんなデータを示しながら、ヘルスケアIT産業は「日本では黎明期にあり、これから成長の余地がある」と話した。

“逆の組み方”でベンチャー支援

 この領域でMSDは「ICTを軸とした、新しいヘルスケアのエコシステムをつくる」(諸岡氏)ことを狙う。医療・介護の意思決定の場で「情報の力をさまざまなレベル、機会で活用できる環境をつくる。これにヘルスケアIT企業と一緒に取り組みたい」(同氏)。

 こうした思いから同社がベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズと共同で2016年2月に始動させたのが、「ヘルステックプログラム」だ(関連記事1)。ヘルスケア分野でICTを活用したサービスやソリューションを開発するベンチャー企業に対し、事業化に必要な知見やノウハウ、ネットワークを提供する取り組みである。既に「ミナカラ」「エクスメディオ」「認知症総合支援機構」の3社との協業を始めた(同2)。

 同プログラムにおける協業のあり方は「ニーズを満たしてくれる企業と組むという、従来のスタイルとは大きく異なる。まずは面白そうだと思った企業を選び、お互いが協力できる領域をその後から探すという、通常とは逆のやり方」(諸岡氏)だ。実際の成果に結び付けるのには時間がかかるものの、ベンチャー企業のスピードや斬新な発想に学ぶところは多いという。

 ほかにもMSDは、医療従事者に向けた情報提供プラットフォームとして、国内外の最新の医療情報を提供する「Smartmed」、同社製品に関する情報を提供する「MSD Connect」などを展開している。MSD Connectでは例えば、地域に根差した薬剤師を支援する「Pharmacist Town(ファーマシスト タウン)」と呼ぶコンテンツを用意。生活習慣病患者に対する服薬指導を支援する「サポートキット」などを提供している。