「意思決定の多様化」を支える

 地域医療をめぐっては、製薬企業の戦略に影響を及ぼす環境変化がまさに起こりつつあるという。キーワードは「機能分化」と「ネットワーク化」だ。

 地域医療を担う施設の機能分化が進めば、患者の流れが変化し、製薬企業にとっての「コンタクトポイントも変わる」と諸岡氏は見る。機能分化は医療従事者間にも起こり、薬剤選択など、現場での意思決定が「重層化、分散化、多様化してくる」。従来、病棟での業務にはコミットできなかった薬剤師が、診療報酬改定(病棟薬剤業務実施加算)を背景に、診療における意思決定にも関与するような流れがその1つだ。さらには、ネットワーク化に伴って地域医療の標準化が進むと、医療機関の統合や連携が促され、「地域で使用される医薬品の統合・集約が起こる可能性がある」。

 こうした形での地域医療の中心的な役割を果たすのは、患者に合わせた意思決定が「どこででもできる情報共有のプラットフォーム」だと諸岡氏は指摘する。この観点から同社は「情報プラットフォームをハブとした(地域医療における)共有の取り組みを支援していく」という。

 こうした情報プラットフォームの構築に寄与するとMSDがにらむのが、ITを活用したヘルスケア(ヘルスケアIT)である。日本におけるヘルスケアITの産業規模は、米国に比べてずっと小さい――。諸岡氏はそんなデータを示しながら、ヘルスケアIT産業は「日本では黎明期にあり、これから成長の余地がある」と話した。