電子情報技術産業協会(JEITA) ヘルスケアIT研究会 主査の鹿妻洋之氏は、「第21回 日本遠隔医療学会学術大会(JTTA 2017)」(2017年9月30日~10月1日、宇都宮市)のシンポジウム「遠隔診察(テレケア)をサポートするプラットフォームの構築をめざして」に登壇。「遠隔診察と在宅モニタリング 運用面から見た現状と課題」と題し、遠隔診療の運用面の課題をデバイスやソフトウエア、システムの観点から解説した。

JEITA ヘルスケアIT研究会 主査の鹿妻洋之氏
JEITA ヘルスケアIT研究会 主査の鹿妻洋之氏
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 鹿妻氏はまず、厚生労働省が2017年7月に発出した遠隔診療に関する新しい通知を紹介(関連記事1同2)。遠隔診療の適用条件として、次の3つを求められていることがポイントになるとした。すなわち(1)患者側の利点を十分に勘案すること、(2)当事者が医師および患者本人であることが確認できること、(3)対面診療に代替しえる程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られること、である。

 これらの条件は「見えない状況において記録された情報の信頼性(をどう保証するか)に帰着する」と鹿妻氏は指摘する。その上で、この観点から遠隔診療に運用上どのような課題があるかを解説した。

 「医療者に理解いただきたいこと」として挙げたのは、ハードウエアにもソフトウエアにも、その信頼性に限界があること。例えば、遠隔での診療やモニタリングに使う機器やアプリを考えた場合、ベンダーは利用者が「正しく着ける」「正しく測る」といったことが信頼性保証の前提になると考える。ところが、実際には測定が終わった後にその結果を「正直に報告・回答する」「登録データが改ざんされない」といった要素も、データの信頼性を左右する。データの変換や連携といった一連のデータフローにも、信頼性を損なう要素が入り込む余地はある。

 データの収集後に人間による解釈や判断が加わる点も、医療分野の特徴という。完全自動化されているケースは少なく、遠隔での診療やモニタリングでは原則として、データの解釈に医療従事者が介在する。

 これらの要素を考慮した場合、機器やアプリで収集するデータの「量と質、コストのバランスについての合意形成が大切になる」と鹿妻氏は訴える。遠隔診療ではしばしばシステムの信頼性が重視されるが、人間が介在することを前提にした責任分担が十分に議論されていないという指摘だ。システム側の信頼性に全面的に依存することは難しく「現場での行動をイメージしながら、データに期待する内容やレベルを議論することが欠かせない」と鹿妻氏は話している。