医療費負担の透明性を確保して不公平にならないようにするためには「医療等ID」が必要になる――。

 東京大学 大学院医学系研究科医療経営政策学講座の山本隆一氏は、「デジタルヘルスDAYS 2015」(主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)のカンファレンスで講演。「医療等IDと個人情報保護」と題して、マイナンバー制度と医療等IDの関係などについて語った。

 講演ではまず、OECDが調査した「総医療費の対GDP比」が取り上げられた。この調査によると、日本の2012年「総医療費の対GDP比」はOECD加盟国の平均と同じ9.5だったという。ちなみに、アメリカは日本の倍近い17.6、オランダで12.0、フランスとドイツは11.6。日本では医療費の高騰が問題になっているが、他の先進国と比較すれば1人あたりの医療費は、それほど高いわけではないことが分かる。一方で、WHOの日本の医療に対する評価は1位。つまり、「あまりお金をかけずに高いアウトプットを出している」(山本氏)のが日本の医療の現状となる。

 これは医療従事者などの献身的な努力の結果といえるだろう。しかし、少子高齢化が進むなか「この状態をできるだけ維持したうえで、現状の社会保障を保てるかが日本の課題となる」(山本氏)。そして、その課題解決に向けた動きが「個人情報の保護に関する法律と番号法の改正案」や「日本再興戦略2015」であり、「医療分野のID活用」もその中で課題として示されている。

 なぜ医療分野のIDが必要なのか。その最大の目的は透明性を確保することだ。そもそも、税金や保険料といった負担を上げずに、現状の医療サービスのレベルを2015年以降も10年間続けるのは基本的に不可能とされている。この状況を解決するには「負担の引き上げ」または「医療サービスの削減」が必要となるが、どちらにしても国民にとっては痛みを伴うことになる。

 その際に、どこかが不当に利益を得たり、負担が不公平になったりしないように、データに基づいて透明化された仕組みが必要となる。その1つが医療分野における「医療等ID」である。これは、医療等(医療・健康・介護)分野の情報をマイナンバーにひも付ける役割も果たす(関連記事:医療等IDではマイナンバー制度のインフラを最大限活用する)。

東京大学 大学院医学系研究科医療経営政策学講座 山本隆一氏
東京大学 大学院医学系研究科医療経営政策学講座 山本隆一氏
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日本の医療の現状を示す様々なデータ
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