講演する細井氏
講演する細井氏
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 医学を基礎としたまちづくりに挑む――。「デジタルヘルスDAYS」(主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)のカンファレンスで、奈良県立医科大学 理事長・学長の細井裕司氏は、同氏が提唱する「MBT(Medicine-Based Town)」について講演した。

 MBT構想の背景にあるのは、「MBE(Medicine-Based Engineering)」と名付ける“医学を基礎とする工学”の考え方だ。MBEの着想は11年前にさかのぼる。もともと耳鼻咽喉科の教授であった細井氏は、ある種の圧電振動子を耳軟骨部に当てることで音が内耳に伝達される“第3の聴覚”として「軟骨伝導」を発見した。

 この発見を補聴器などの医療機器だけではなく、イヤホンや携帯電話機などの一般製品にも応用する意義を感じた一方で、次のような思いも抱いたという。「例えば音響メーカーの方が開発中のヘッドホンを携えて意見を求めにくるが、音が伝わる医学的なメカニズムを理解していない人が多い。人が使う製品を作っているのに、人体の構造や医学的な知見を持たずに製品開発をしていることを奇異に感じた」(細井氏)。医学を工学に持ち込むというMBEの発想は、こうして生まれた。

 MBEと同時に、「住居医学」と呼ぶ概念もMBTの骨子であると細井氏は強調した。住居医学は、手術や投薬によるアプローチだけではなく、人が最も長く付き合う住環境を医学的な観点から研究しようとするもの。2006年には大和ハウスの協力下、奈良県立医科大学内に「住居医学講座」という寄付講座も設立している。

 このMBEと住居医学の考え方を発展させ、まちづくり自体に医学の考え方を持ち込もうというのが、MBTというわけだ。細井氏が目指すのは「まち全体を巻き込む試み」。(1)少子高齢化社会を解決するモデルの構築、(2)新しい産業の創出、という2つの目的を掲げる。