「デジタルヘルスDAYS 2017」(主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)の2日目のオープンシアターでは、主催者企画として「保険業界はデジタルヘルスに“経済性”をもたらすか」と題するパネル討論を開催した。保険会社が加入者の健康増進をサポートする取り組みを加速させる中、こうした動きがデジタルヘルス分野のサービス開発やビジネスモデル、市場などに与える影響を探る企画である。

 パネリストとして、メットライフ生命保険 執行役員 経営企画担当の前中康浩氏とアクサ生命保険 取締役 専務執行役 チーフマーケティングオフィサーの松田貴夫氏が登壇。日経デジタルヘルス編集長の小谷卓也がモデレーターを務めた。

オープンシアターで開催
オープンシアターで開催
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 まずは前中氏と松田氏がそれぞれ、メットライフ生命とアクサ生命におけるデジタルヘルスへの取り組みとそのモチベーションについて話した。

“裏のニーズ”が真のニーズ

 前中氏はまず、保険会社にとってデジタルヘルスへの取り組みはInsurTechすなわち“保険×テクノロジー”の一領域と位置付けられると説明。InsurTechが注目を集めるようになった背景として、さまざまな分野の技術進化とそれに伴う価格下落を挙げた。「ウエアラブルやAI(人工知能)、IoT(Internet of Things)が、試してもいいという価格帯にまで落ちてきた。遺伝子検査においても全ゲノムの解析コストが大幅に下がっており、こうした流れに保険会社としてどのように対峙するかが大きな課題になってきた」(前中氏)。

 保険会社がこうした変化に対応していく上での課題の一つは「顧客との接点が極めて希薄」(前中氏)な点だ。保険は加入者の日常に寄り添う商品のようでいて、保険会社が加入者にコンタクトする機会はかなり限られているという。結果として保険会社は「信頼という要素を大切にしてきたが、保険会社が本当に信頼される存在かどうかを問い直す必要がある。消費者はAmazon.comやLINEにより大きな信頼を置くかもしれず、金融機関が扱う金融商品だから信頼してもらえるはずだ、という考えは保険会社のおごりかもしれない」(同氏)との問題意識を抱えている。

メットライフ生命保険の前中康浩氏
メットライフ生命保険の前中康浩氏
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 前中氏は、保険業界と同様にデジタルヘルスに力を入れている業界として製薬業界を挙げ、薬の販売に頼るビジネスモデルを脱し、予防や未病の領域に参入していることを指摘。保険会社も、保険という商品単体で差異化しようとするのではなく、「保険を購入する人の“裏にあるニーズ”を探すこと、健康で過ごしたいという思いに応えることが大切だ」とした。

 メットライフ生命は、ヘルスケア分野の中でも疾病予防や重症化予防に軸足を置き、この分野の開拓に向けてオープンイノベーションを推進する。アジア地域を中心に、そのためのアクセラレータープログラムなどを立ち上げた。

 ヘルスケア分野への参入に当たって、保険業界は「データが好きな業界だが、(ヘルスケア分野では)意外とデータを持っていない」と前中氏は話す。他社との連携も活用しながら、電子カルテやレセプトなどの医療データ、さらにはライフログや健診データ、遺伝情報なども組み合わせ、疾患の発症リスクモデルを開発する取り組みに「どの保険会社もがむしゃらに取り組んでいる」(前中氏)。

 パネル討論の本題でもある、保険会社がデジタルヘルス業界に経済性をもたらす可能性については、こう語った。「病気になることを防ぐ技術を100円で提供できる企業があるとする。もし、我々がその技術を活用して加入者への保険金給付額を200円減らせることが見込めるなら、我々は消費者に代わって100円を払うことを惜しまない。ただし、その技術が本当に病気を予防できるかについてのエビデンスはきちんと求める」。