東京大学大学院教授の浦野氏
東京大学大学院教授の浦野氏
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 スプレー蛍光試薬によってがん細胞だけを光らせることにより、術中の明確なガイドとする――。「次世代がん診断サミット2015 ~『超早期』への破壊的イノベーション、始まる~」(主催:日経デジタルヘルス)に登壇した東京大学大学院 医学系研究科・薬学系研究科教授 浦野泰照氏が提示した「蛍光プローブを活用した分子イメージング」は、臨床医のための実践的な手段として期待されるものである。

 今回のセミナーにおける他の診断手法がすべて「早期発見」の観点に立っているのに対し、浦野氏の手法は外科手術や内視鏡手術を行う医師が対象。その内容は非常に高度で専門的なものとなった。一方で「ウォーリーをさがせ!」のスライドを見せながら、いかに選択的にがん細胞を光らせることが難しいかを説明するなど、親しみやすい部分も見られた。

 蛍光プローブとは、観測対象分子と特異的に反応・結合し、その前後で蛍光特性が大きく変化する機能性有機小分子のこと。この特性を生かして、見たい部分を可視化する。浦野氏らの研究グループはこれまでに、GGT(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)という酵素活性を持つがん細胞のみを、蛍光プローブを用いて選択的に光らせることに成功した。GGTは、多種多様ながん組織で活性が増強しているという報告がある酵素だ。

 浦野氏は、内視鏡の先端からごく微量の蛍光プローブを噴霧し、数分程度でがんの部位を光らせることに成功したスライドを示しながら、「非破壊分析で単純、しかも5分で結果が出る」とそのメリットを説明した。九州大学などとの共同研究では、乳がん患者からの摘出済みサンプルで検体実験を行い、試薬を用いて1分程度で発光を確認できたという。

 こうした可能性を求めて、現在では全国各地の医師と協力関係を結び、北海道から九州までのネットワークを形成している。さらに安全性試験を共同で実施する企業も出てきたことから、今後の進化が望まれる状況にある。「がんを根治するには、できることなら外科手術が最良の手段。しかし、がん細胞を術中に発見する上では術者の勘に頼る部分が多い。がんのどこの部位を取ればいいか。その判断のために蛍光プローブを活用してほしい」(浦野氏)。