講演する吉川氏
講演する吉川氏
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 人間が吐く「呼気」によってがんを診断する。物質・材料研究機構(NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の吉川元起氏は、がんの呼気診断に用いる小型デバイスを開発中だ。

 「次世代がん診断サミット2015 ~『超早期』への破壊的イノベーション、始まる~」(主催:日経デジタルヘルス)に登壇した吉川氏は、「究極はスマホに息を吹きかけてがんを診断したい」と語る。同氏が開発したデバイスのプロトタイプは既に2015年1月の「nano tech 2015」で披露されており、現在も製品化に向けて改良を重ねている。

 IoTが隆盛を迎えつつある今、膨大なセンサー類が日常にあふれているが、嗅覚センサーと味覚センサーは実現していないと吉川氏は説く。こうした化学的相互作用のセンサーが生まれれば、医療やヘルスケア分野にとって多大なる貢献をもたらすと同氏は考えている。

 「いつでも・どこでも・だれでも」診断できることをモットーに研究を進める吉川氏は、モバイルであることにこだわりを見せる。ピエゾ抵抗カンチレバー型のMEMS(微小電子機械システム)センサーを改良し、超小型シリコン製の膜型表面応力センサーを開発。従来型に比較して130倍の感度を実現したという。そのプロトタイプは手のひらに乗るサイスである。

 一方で呼気は日内変動が大きい、息の吐き方でも成分が変動する、生成機構に不明点が多いなど不安定要素も抱える。欧州では呼気診断の国際学会や専門研究所なども存在するが、日本ではまだまだ認知度が足りないとする。

 このように課題は多いものの、少ないサンプルながら、実験結果ではがん患者と健常者で分布が別れたという。応用例としては気中測定も想定し、講演では鶏肉・豚肉・牛肉の分析結果や、シックハウス症候群物質の同定結果なども示した。

 今後は医学的根拠の確立、呼気採取方法の検証、データ解析方法の確立、「簡便さ」と「正確さ」の両立などをクリアしながら実用化を目指す。現在、複数の企業、大学とチームを組んで要素技術を統合中とのことで、実現に向けての期待が高まる。