国立がん研究センター研究所の落谷氏
国立がん研究センター研究所の落谷氏
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 2015年9月2日に開催された「次世代がん診断サミット2015 ~『超早期』への破壊的イノベーション、始まる~」(主催:日経デジタルヘルス)。特別講演、基調講演と続いた午前の部を終え、午後の部は“実践編”ともいえる「がんの早期診断技術」の見本市となった。

 口火を切ったのは「血液1滴でがん診断」を掲げる国立がん研究センター研究所 分子標的研究グループ 分子細胞治療研究分野長の落谷孝広氏。「今週は4本の講演があるが、本職のがん幹細胞、核酸医薬の講演は1本のみ。あとは今回の診断に関するものだ」との言葉からも、注目度の高さがうかがえる。

 落谷氏の取り組みは、患者に苦痛を与えずに新しい治療をしたいとの思いがきっかけだ。血液によるがん診断の特徴として、早期診断の実現、痛みを伴わない非侵襲、迅速かつ精度の高い判定が可能と語った。

 具体的には、がん細胞が分泌するマイクロRNA(リボ核酸)に着目し、大腸がんや乳がんなど13種類のがんにそれぞれ特徴的なマイクロRNAを組み合わせることで、がんの早期発見やがん種の特定につなげるというもの(関連記事)。昨今の研究では、がんなどの疾患に伴い血液中でその種類や量が変動することが明らかになっており、新たな疾患マーカーとして注目されている。

 既に2014年から「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」と名付けたプロジェクトが進行中で、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、東レ、東芝などが参加。期間は2018年までの5年間で、総予算は約79億円と非常に大掛かりなものだ。「目指すのはがん死亡率の改善、そしてデータベースの構築。1万検体を超える予定だ」(落谷氏)。

 プロジェクトではユーザーフォーラムを組織している。これにより、製薬企業や診断機器メーカーなどに速やかに橋渡しをする考えだ。さらに「単にマーカーで終わるのではなく、なぜ、がんの早期にマイクロRNAが現れるのか、転移の際に変化するのかを追究する」(落谷氏)。こうした動きは日本が先陣を切って実施していることから、米国から視察に訪れた例も紹介した。

 講演後には会場からの質問も受け付けた。臨床医師による「がんが存在することは簡単に診断できるようになるが、局在診断(部位の同定)がしにくい状況だと、不安になる患者も出てくるのではないか」との質問に、落谷氏は「今回の診断方法は早期の1次スクリーニングとして用いるべきものであり、まずは次の検査に確実に進めるような検診センターの領域で実施するのが妥当だろう」と回答。その際は、医師に詳細なマイクロRNAの情報を説明する予定だとした。