ウエアラブル生体センサーと機械学習を活用し、高齢者の日常行動(歩行動作)から定量的に運動機能を評価する。福井大学医学部附属病院とパナソニック ビジネスイノベーションAIソリューションセンターが、そんな臨床実験を実施した。同社 AIソリューションセンター主任技士の佐藤佳州氏が、「第21回 日本医療情報学会春季学術大会」(2017年6月1~3日、福井市フェニックス・プラザ)の大会企画「医療情報におけるビッグデータと機械学習の活用例」において、その取り組みについて講演した。

パナソニックの佐藤氏
パナソニックの佐藤氏
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 病院や大規模なリハビリ施設では運動機能を評価する専用装置が導入されているが、コストが高い上に高齢者が日常的・継続的に検査するには身体的負荷が大きいという課題がある。また、簡単に評価できる簡易検査もあるが定量性が低いという問題があるという。そこで今回の取り組みは、「生体センシングによるデータを機械学習することによって、寝たきりの主要な要因リスクを早期に検知する技術の実現を目指すもの」(佐藤氏)だという。

 具体的な手法は、高齢の被験者にウエアラブル生体センサーを装着し、歩行動作における加速度・角速度(3カ所)、心拍・体温といった定性生体情報を計測。これとセットで専用装置を用いて下肢筋力、持久力(最大酸素摂取量)の計測を行う。両データを運動機能データベースとして蓄積し、運動機能を推定する知識を機械学習によって生成する。被験者は一般高齢者102人、二次予防・要支援・要介護の高齢者38人、合計140人を対象とした。

 臨床実験のポイントとして佐藤氏は、(1)長時間のセンサーデータからの“着目点の学習”と、(2)簡易検査データを利用した“転移学習”の技術、を挙げる。「センサーデータは巨大で冗長であるため、そのまま機械学習に入力することが難しく、有用な部分に着目して特徴量を抽出する必要がある。そこで、センサーデータから下肢筋力推定に有用な着目点を自動的に算出する手法を提案した」(同氏)。

 また、後者の異なるタスクで学習された知識を流用する手法である転移学習の導入については、「専用装置を用いた下肢筋力データは取得がボトルネックで機械学習に十分なデータ量ではないため、簡易検査で計測したデータを用いた転移学習の導入を実験的に行ったもの」と佐藤氏は説明する。