国民の医療情報を匿名加工して、大学や製薬企業の研究開発などでの活用を可能にする仕組みを定めた「次世代医療基盤法」が、2017年4月28日に国会で可決・成立した。医療情報をビッグデータ化して分析することにより、新たな医療行政や創薬、医療機器開発などの研究に生かすことが狙いである。1年後の施行を目指して、今後、詳細なルールや体制づくりが進められる。

内閣官房内閣審議官の藤本氏
内閣官房内閣審議官の藤本氏
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 この次世代医療基盤法の意義とは――。内閣官房 内閣審議官 健康・医療戦略室次長の藤本康二氏は、「第21回 日本医療情報学会春季学術大会」(2017年6月1~3日、福井市フェニックス・プラザ)の特別講演に登壇。「医療機関」と「保有する個人の医療情報」を“畑”と“収穫物”に例え、次のように語った。「畑からデータをきちんと収穫し、加工して付加価値の高いものにしていく仕組みが必要。その仕組みを国として持つことが、次世代のヘルスケアを伸展させることができる」。

 政府は先頃、「未来投資戦略2017」(素案)を発表した。その議論の過程で、ビッグデータや人工知能を最大限活用し、予防・健康管理や遠隔医療を進め、質の高い医療を実現していくことを表明している。藤本氏は、「これらに向けて次世代医療基盤法は大きな役割を果たす」と強調した。次世代医療基盤法とは何か、そして、これによってどのような世界が実現するのか、同氏が語った。

“集める”機能を共通化

 藤本氏はまず、医療情報収集の現状と課題について指摘した。現在、リアルワールド系データベースには、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)やDPCデータベースなどがある。こうしたデータは標準化され広く収集できる反面、DPCの一部データを除いては診療内容に限ったものであり、情報の深さ・多様性に限界がある。特定の研究目的のために画像・検査結果などを含む深い情報を集めるとなれば、手続き(本人同意)やコストがかかり、大量のデータを収集するのは困難なのが実態だ。

 これに対して次世代医療基盤法は、「(問診内容や検査結果、治療予後などを含む)それなりに深く、それなりに広く(大量に)医療データを収集し、医療機関以外でも利活用できる仕組みを作ろうというもの」だと藤本氏は説明する。現状のデータの利活用は、「保険行政のためにNDBを」「医薬品安全対策のためにMID-NET(PMDAの医療情報データベース)を」というようにそれぞれがテーマ性を持ってデータベースを構築して分析している。「これらを一定のルールに則ってデータ収集する基盤をつくれば、それぞれの利活用者は自分の目的のテーマに必要なデータを入手・活用できる。この“集める”という機能を共通化することも次世代医療基盤法のテーマの1つになっている」(藤本氏)。