登壇した堀氏
登壇した堀氏
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 大地震などの災害時、傷病者の応急処置や帰宅困難者の一時滞在の拠点へ早変わりする――。大和ハウスグループは今、そんな機能を備えた賃貸マンションの展開に力を入れている。その名も「ER(Emergency Response)ビル」。国内で2物件が竣工済みで、2018年には海外展開も始まるという。

 「第11回 ITヘルスケア学会学術大会」(2017年5月27~28日、名古屋市)のランチョンセッションには、大和ハウス工業 取締役専務執行役員の堀福次郎氏が登壇。「大和ハウスグループにおける防災事業への挑戦」と題し、ERビルへの取り組みを紹介した。

 大和ハウスグループは阪神・淡路大震災や新潟県中越地震の経験を踏まえ、2005年に「DASHプロジェクト」を立ち上げた。大規模災害が発生した際に、応急仮設住宅を迅速に建設することを中心とした取り組みである。2011年の東日本大震災ではこれが有効に機能し、震災から150日後までに応急仮設住宅1万戸を完成させるなどの成果をあげた。

屋上でホバリングできる

 一方、課題として残ったのがヘリコプターによる救助・救急への対応だった。大和ハウスによれば、東日本大震災では1日に100機以上のヘリコプターが活動したと推定され、計5000人近くがヘリコプターによる救助・救急を受けた。ところが、特に都市部では「ヘリコプターが降りられる場所が少ない」(堀氏)という課題があり、これを克服することが次の大規模災害に備える上では欠かせない。

 そこで同社が開発に乗り出したのが、ERビルだ。その最大の特徴は、賃貸マンションでありながら、屋上から設備機器を排除し、ヘリコプターがホバリングできるスペースを確保したこと。これにより、災害時に医師や看護師、医療物資などをヘリコプターで受け入れたり、傷病者をヘリコプターで搬送したりできるようにした。救助・救急などに使える非常用エレベーターも備える。

 さらに、災害時にはマンション内の共有スペースを開放して帰宅困難者など数百人を受け入れることが可能で、ゲストルームは傷病者の処置室として利用できる。マンション内のコンビニエンスストアや防災倉庫は、食料や医薬品、毛布などの物資の供給拠点として機能する。生活用水や電気を確保するための防災井戸や受水槽、飲料水生成機、非常用発電機なども備える。これらの機能によって、地域の防災拠点としての役割を果たす。

 ERビルの第1弾は、2015年3月に愛知県名古屋市に竣工した「ロイヤルパークスERささしま」。第2弾の「ロイヤルパークスER札幌」が2016年8月に竣工しており、第3弾の「ロイヤルパークスER万代」が2018年8月に新潟市に竣工予定である。海外展開も計画しており、第1弾は2018年春にベトナム・ハノイで竣工するという。