講演する荒川氏
講演する荒川氏
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 センサーとAI(機械学習)を活用し、通所介護(デイサービス)施設におけるケア記録を自動生成する。奈良先端科学技術大学院大学 准教授の荒川豊氏のグループは、そんなシステムの開発を進めている。「第11回 ITヘルスケア学会学術大会」(2017年5月27~28日、名古屋市)のシンポジウム「医療分野におけるモバイル・IoTとセキュリティ」で、その取り組みについて講演した。

 荒川氏のグループはかねて、住居内に各種のセンサーを張り巡らせ、その中での人の行動をカメラを使わずに認識する行動認識技術の研究を進めてきた。大学内に1LDKの住宅施設を設け、人感センサーや測位センサー、環境センサー、電力センサーなどで収集した情報から、施設内の人の行動を精度よく推定する機械学習のアルゴリズムなどを研究してきた。そのノウハウを「高齢者見守りに使えないかと考えた」(荒川氏)という。

 高齢者見守り向けに開発を進めているのが、BLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンを用いた行動認識・記録システムだ。このシステムでは、高齢者が身に着ける名札にBLEビーコンを内蔵し、ビーコンからの信号を読み取る装置を住居内に張り巡らせる。加速度センサーを併用し、高齢者の姿勢や動きも推定できるようにする。これにより、立ち、座り、歩行といった施設内での高齢者の運動状態を推定したり、トイレやリハビリの時間を推定したりすることが可能だ。

場面に応じたメモが取れるアプリも

 通所介護施設と共同で技術の検証を進めており、位置(存在エリア)は80%以上、動作は70%以上の精度で認識できるところまできた。システムは10万円前後のコストで構成可能という。

 介護をしながら簡単にメモが取れる介護職員用アプリも開発中だ。これは、高齢者がいる場所や行動に応じて、情報入力画面が自動で切り替わるアプリ。例えば高齢者がトイレに入ると、便の情報などを入力できる画面が介護職員の手元のスマートフォン画面に現れる。従来の介護施設では「さまざまな場所にメモ用紙を置いて介護職員がその場でメモを取り、後からそれらのメモを集めて被介護者ごとに記録を整理するという、手間のかかる方法が採られてきた」(荒川氏)。

 以上のような仕組みを採り入れたシステムを、2017年度内に完成させたいと荒川氏は話している。