「患者に心配をかけずに、医師と家族がコミュニケーションをとることができた」。東京大学 医学部附属病院 神経内科 講師で外来医長の岩田淳氏は、講演の中でこう述べた。同氏は、ICTコミュニケーションツール「わすれなびと」を活用した認知症ケアの予備的臨床研究(パイロットスタディ)の成果を紹介した(関連記事)。

 思考力や記憶力が病気や怪我によって低下する認知症には、根本治療薬がない。医療従事者ができるのは、「患者の生活を支えること」と岩田氏は言う。医師や看護師、ケアマネジャー、薬剤師などさまざまな人が介入する必要があるという。

東京大学 医学部附属病院 神経内科 講師で外来医長の岩田淳氏
東京大学 医学部附属病院 神経内科 講師で外来医長の岩田淳氏
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 その際必要になるのは、患者の日ごろの情報だ。どういう状態なのか把握することで、治療方針が立てやすくなる。

 ところが、認知症患者に診察時に「この1カ月はどうでしたか?」と尋ねても、「変わりません」と答えることがほとんどだという。医師としては、診察に同席する家族から情報を聞きたいが、患者がいる手前話せないことが多い。認知症が進行して生じる症状としては、「家事をしない」「同じものをいくつも買う」「トイレで失敗した」など患者に否定的なことが多いからだ。家族が「こんなことがあって大変」と言えば、自覚症状のない患者を傷つけてしまうことすらある。

 そこで開発したのが、わすれなびとである。エーザイとココカラファインの監修のもと、東京大学 医学部附属病院がインターネットイニシアティブの協力を得て開発した。

「わすれなびと」の概要(プレスリリースより)
「わすれなびと」の概要(プレスリリースより)
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 2016年に実施した予備的臨床研究では、10人の認知症患者にタブレット端末を貸し出した。患者とその家族も利用することができるが、家族が申告した情報が患者にもれることのないように患者と家族のログインアカウントを分けた。