糖尿病患者も楽しめる食事を提供する料理人「メディ・シェフ」を増やしていきたい――。竹屋旅館の代表取締役である竹内佑騎氏はこう抱負を述べた。同氏は、「ヘルスケア産業の最前線2017」(2017年3月3日、主催:経済産業省)の第2部として開催された「地域を支えるヘルスケアサービス事業者の事例紹介」で、自社が取り組むメディ・シェフについて紹介した。

 竹屋旅館は静岡市清水区でホテルクエスト清水を営む。過去20年以上に渡り、サッカー日本代表をはじめとするプロアスリートに食事を提供してきており、この経験が、同社の健康食サービスの土台になっているという。

講演する竹屋旅館代表取締役の竹内佑騎氏
講演する竹屋旅館代表取締役の竹内佑騎氏
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 同社が健康食サービスに力を入れるようになったのは7年前。地元の医療機関から、糖尿病患者が楽しめる食事を依頼されたことがきっかけだ。糖尿病患者向けの料理では、使える食材が限られ、美味しさを追求しにくい。竹内氏や料理長は「美味しいものを提供することがおもてなしだと信じていた」ため、葛藤があったという。しかし、食事を提供した際、日頃は食事制限に苦しむ糖尿病患者が涙を流して喜ぶ姿を見て、考えを変えたという。

 竹屋旅館では、糖尿病患者と家族がそろって同じものを食べられるサービスも大切な「おもてなし」であると発想を転換。糖尿病治療の食事制限条件をクリアしながら、患者も健康な人も美味しく食べられる食事を開発した。具体的には、糖質40g以下、カロリー700kcal以下、塩分3g以下でかつ栄養バランスが取れたフルコースの料理だ。「アスリート向けに、栄養たっぷりで、かつ血糖値のブレを抑える食事を提供してきた経験と、ホテルシェフ20年の経験を持つ料理長の調理技術の組み合わせで、誰が食べても美味しい健康食を生み出せた」(竹内氏)。

 このフルコースの誕生で、地域医療機関の患者会による利用は、2016年実績で年間34件、のべ700人以上と従前に比べて大幅に増えた。また、同社が地元メーカーと共同で開発した健康食品も、百貨店などで売り出されて10分で完売するなど、ユーザーの評価は上々。一方で「プロの料理人でさえ、食や健康に関する正しい知識が不足しているという課題も浮き彫りになった」(竹内氏)。