19世紀の産業革命ではフランス人のJoseph Marie Jacquard氏がパンチカードで制御する自動織機を発明した。そのポイントは、職人の手仕事をパンチカードに記述したプログラムに置き換えて、機械が処理できるようにしたことである。IoTやセンサーネットワークの発展で同じことが起きると仮定すると、医師の仕事の多くはコンピューターに埋め込まれることになり、あとは「センサーネットワークが収集できなかったデータを測定する」「専門的な情報を患者に分かりやすく説明する」、それに「治療のためのアクチュエーター」といった仕事が残るだけになる。

 こう語るのは、京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 教授の黒田知宏氏。「メディカルジャパン 2016大阪」の医療情報フォーラム専門セミナーでは、IoTの発展が医療に及ぼす影響を次のように解説した。

 アクチュエーターである医師は、疾患ごとの時間的な制約にもとづいて配置される。例えば、心筋梗塞の患者は2時間以内にバルーン治療を施さないと亡くなってしまう可能性が高いので、心臓外科医は地域ごとの緊急病院に配置する。緊急性を要しない骨折、がん、免疫疾患などの担当医は大きな病院に集積する。

京都大学医学部附属病院医療情報企画部教授の黒田知宏氏
京都大学医学部附属病院医療情報企画部教授の黒田知宏氏

 IoTのセンサーネットワークが日常的に生体データを収集できるようになれば、新しい治療法やサービスが広がっていくことが期待できる。だが、現在の医師法では医療行為は医師しか担当できない。このため、センサーが膨大な生体データを収集するようになれば、それを診る医師の仕事は際限なく膨れ上がっていく。そこで、パンチカード制御の自動織機が機織り職人の仕事を自動化したように、医師の仕事をコンピューターが代替することが必要になってくるというわけだ。