ソニーがISSCC 2016で発表した次世代GNSS受信ICのRF回路部分
ソニーがISSCC 2016で発表した次世代GNSS受信ICのRF回路部分
(写真:ISSCC)
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GPS、Galileo、GLONASS、Beidouの利用周波数とそれらに対応するモード
GPS、Galileo、GLONASS、Beidouの利用周波数とそれらに対応するモード
(図:ISSCC)
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受信回路のブロック図
受信回路のブロック図
ベースバンド処理には、GPSとGalileo、GLONASSとBeidouでそれぞれ共通の回路を利用している (図:ISSCC)
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 ソニーは半導体集積回路の国際学会「ISSCC 2016」で、Global Navigation Satellite System (GNSS、衛星測位システム)の受信ICの開発について発表した(Session 26.5)。GNSSは、米国が運用する「GPS」と欧州が運用する「Galileo」、ロシアの「GLONASS」、そして中国の「Beidou(北斗)」などの総称である。

 発表によると同受信ICの消費電力はGPSまたはGalileoに対しては1.5mW、局所発振周波数をやや高めてGPSとGLONASSの両方を受信するモードに対しては2.3mWで、競合製品に比べて1/10前後低い。ソニーによればこれまでの学会発表での最小値は9mWだったという。ソニーが2013年に製品化した同受信IC「CXD5600」の10mWに対しても大幅に低い。

 GNSS受信ICの消費電力低減には腕時計メーカーの強い要望があるという。「これまで、GPS対応の腕時計は一定の容量の2次電池を必要とするため、デジタル時計限定で、しかも大ぶりだった。メーカーからは、スマートなアナログ時計にも実装したいので消費電力をもっと下げてくれと言われている。我々としては、腕時計に実装された太陽電池で動作する水準まで動作電圧と消費電力を低減し、2次電池を不要にしたい」(発表者でソニー デバイスソリューション事業本部 研究開発部門 デジアナシステム開発2部 2課 統括課長の山本憲氏)。

 腕時計の他にもGNSSのニーズは、活動量計や子供の見守り、そしてドローンの追跡などさまざまなIoT(Internet of Things)用途に広がりつつある。感度を低下させずに消費電力を大きく下げられれば、GNSSの市場を大幅に広げることにもつながる。

DCフィードバック回路にオペアンプを利用

 今回開発した受信ICでの消費電力低減の基本方針は、大きく2つある。1つは動作電圧を下げたことだ。今回は0.7Vまで下げた。もう1つは、従来のSiトランジスタに比べて動作効率が高い28nm世代のFD-SOI(Fully Depleted Silicon On Insulator)トランジスタを採用した点である。この方針は2015年1月の時点でソニーが明らかにしていた(関連記事)。

 ただし、ただ動作電圧を下げると動作が不安定になったり、感度が低下したりする課題があった。ソニーは今回、安定動作を図るため大きく2つの技術も発表した。(1)低雑音アンプ(LNA)中にオペアンプを用いたDCフィードバック回路を設けた、(2)ベースバンド信号を取り出す際に利用する低域通過フィルター(LPF)にOperational Transconductance Amplifier(OTA)による正帰還の回路を加えた、の2点である。OTAには出力インピーダンスを低減するための抵抗素子を3つ追加するなどの工夫も施したという。