IT企業にとどまらず、多くの企業が研究所を設立し、人工知能の研究・開発に注力している。Internet of Everything(IoE)によるインテリジェントな社会を実現するためには、学習・認識機能などを備える高性能かつ低電力なICが欠かせない。「ISSCC 2016」(2016年1月31日~2月4日、米国サンフランシスコ)のデジタルアーキテクチャー&システム分野のセッション14「Next-Generation Processing」では、学習・認識機能を実現する次世代プロセッシング技術が多数発表された。

KAISTの技術力と訴求力の高さに驚き

 韓国KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)はジェスチャーと音声による自然なUI/UXを実現するプロセッサーについて発表した(論文番号14.1)。4つのDropout Deep Learning Engine(DDLE)と乱数発生のためのTRNG(True Random Number Generator)を搭載する。真の乱数に基づいてエンジン内のレジスターをゲーティングすることで消費電力を45.9%削減するとともに、1.6%と低い誤認識率を達成した。音声処理とステレオビジョンの処理ではFFT演算を最適化し、乗算をバレルシフターで実現するなどの回路最適化を施し、消費電力は126.1mWと低い。

 このプロセッサーを搭載したメガネ型のウエアラブル端末の試作機「K-Glass 3」も発表した。声に反応し、指でキーボードと鍵盤を操作して文字や音を出すことができる。この試作機は昨年同様、デモセッションでも発表しており、多くの人々が試作機を操作したり、発表者に詳細を聞いていた。

 韓国KAISTは、このプロセッサーに続けて、意図を予測するためのエンジンを搭載したADAS向けSoC(論文番号14.2)、およびマイクロロボット向けのAIプロセッサー(論文番号14.3)についても発表した。ADAD向けSoCはSemi Global Matching(SGM)を採用し、意図の予測のためにRecurrent Neural Network(RNN)とファジー推論機能を搭載している。RNNはデジタル処理、ファジー推論機能はアナログ処理でそれぞれ行い、低消費電力化と低誤認識率化を達成した。

 一方AIプロセッサーはReinforcement Learning Accelerator(RLA)を搭載している。障害物の数で必要な処理能力が変わるため、サブスレッショルド電圧での動作を可能とし、障害物の数によって動作電圧を変えることで低消費電力化が可能になるという。また、これら2つの発表ではアプリケーションに特化した学習アルゴリズムの採用とアルゴリズムに対するアーキテクチャーの最適化、複数粒度の並列処理を組み合わせることで、メモリーバンド幅を削減し、消費電力を抑えている。これら2つの発表についてもデモセッションで発表した。IC設計からシステム構築までが行えるKAISTの技術力と訴求力の高さに驚きを感じざるをえなかった。