図1 ヘッドライトの逆光下に置かれた対象物を撮像可能
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図2 有機薄膜型イメージセンサーの特徴
図2 有機薄膜型イメージセンサーの特徴
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図3 2種類のセルで1画素を構成して高ダイナミックレンジ化
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図4 グローバルシャッターで撮像
図4 グローバルシャッターで撮像
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図5 LEDフリッカレスを実現
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図6 回路技術でノイズを低減
図6 回路技術でノイズを低減
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 パナソニックは、同社従来比100倍の123dBのダイナミックレンジを実現したイメージセンサーを開発、開催中の「ISSCC 2016」(2016年1月31日~2月4日、米国サンフランシスコ)で発表した。自動車に応用した場合、ヘッドライトで逆光となった人や乗り物の姿を白飛びなく映し出せる(図1)。同社が開発中の有機薄膜型CMOSイメージセンサーに、「1画素2セル構成技術」と、暗い被写体の撮影時のS/N(信号対雑音)を改善する回路技術を盛り込んで実現した。

 有機薄膜型CMOSイメージセンサーは、光電変換機能を持つ有機薄膜で画素を構成している(図2)。デジタルカメラやデジタルビデオの市場で主流となっている裏面照射(BSI)型センサーと異なり、チップの配線層側に有機薄膜を形成している。裏面照射型では光を電気信号に変えるフォトダイオードを配線層の裏側に置くことで、配線層が光の入射を妨げることを防いでいる。

 対する今回の有機薄膜型では、配線層の前面を有機薄膜で覆う。裏面照射型のフォトダイオードと比べて光の取り込み面積が大きいためにより多くの光を取り込めて高感度にしやすい。また薄いために60度と広い入射角の光を取り込んでも隣接セルに光が漏れることがない。裏面照射型で光を漏らさずに取り込める入射角は30~40度だったという。

 今回、同社は有機薄膜型の性能をさらに改善するため、1画素を高感度と低感度の2種類のセルで構成することによって、ダイナミックレンジを拡大した(図3)。高感度のセルは開口部を大きくし、低感度のセルは開口部を小さくするとともに強い光が当たっても蓄積した電荷がなかなか飽和しないように大容量化した。セルの面積で10倍の差、蓄積電荷の容量で10倍の差を設けて、ダイナミックレンジを従来比100倍にしている。

裏面照射にない特徴を生かす

 ダイナミックレンジの拡大は、裏面照射型にはない有機薄膜型の特徴を生かして初めて実現できたという。有機薄膜型では、有機薄膜が光電変換の機能を担い、電荷蓄積は別の層に配線を介して設けている。このため有機薄膜を広くして、対応する電荷蓄積部を小さくする、といったことが可能になる。裏面照射型のフォトダイオードは、光電変換と電荷蓄積の双方の役割を果たしているために、強い光で電荷が飽和しないように蓄積部を大きくすると開口部も広くなってしまう。

 ダイナックレンジを拡大するために、1フレーム内で露光時間を変えて複数回撮像して合成する方法もあるが、今回の手法は有機薄膜のオンオフ制御で1度に撮像するグローバルシャッター機能を搭載しているために高速移動体を撮影してもブレが生じることがない(図4)。走行中の自動車から車外を撮影する場合などに今回の手法の優位性を発揮できると同社ではみている。また、信号や照明器具のLED化に伴って課題となりつつある「LEDフリッカー」の問題も1フレーム内の撮像時間(露光時間)を長くとることで発生しないようにできる(図5)。

ノイズを1.6電子程度に

 暗い被写体の撮影時にノイズを抑える回路技術として、容量結合型ノイズキャンセル技術を開発した(図6)。イメージセンサーでは、各フレームの撮像開始前に読み出し回路に蓄積した電荷をリセットしてなくし、新たに入射した光に相当する電荷量を計測している。今回開発した回路技術は、このリセット処理で残ってしまう電荷を最大1.6電子程度に抑えている。

 電荷量を計測するための増幅回路の構成を工夫した。電荷蓄積部には、熱雑音によってゆらぎが生じており、従来もゆらぎを負帰還回路でキャンセルさせていた。ただし、最大25電子程度が残っていたという。今回、原因となる負帰還回路の利得を決めるパラメーターをキャパシターの追加で調整した。この特徴は、高感度化につながるため高速撮像時のぶれを抑える効果もある。

 同社では、有機薄膜型が光電変換と電荷蓄積を独立に制御できるという裏面照射型にない特徴を生かして、有機薄膜型センサーを自動車やロボットビジョン分野に適用していきたいと考えている。