移動通信ではこれまで常に2種類以上の通信方式が使用されてきた。「2G」と呼ばれる世代は「PDC」方式(NTTドコモ)や、今もなお使われている「GSM」方式などがある。そして「3G」の世代には、「CDMA2000」(国内ではKDDIが採用)と「W-CDMA」(国内ではNTTドコモとソフトバンクが採用)の他、中国独自の「TD-SCDMA」が存在する。

 特に3G世代は、CDMA方式とW-CDMA方式、TD-SCDMA方式の3種類が併用されたため、モデムチップを扱うメーカーも各方式に対応、非対応の差があった。CDMA方式に対応したチップを供給していたのは、米Qualcomm社と米Via Technologiesの2社のみ。W-CDMA方式は、米Qualcomm社や米Intel社(ドイツInfineon Technologiesのモバイル事業を買収)、米Marvell Technology社、米Texas Instruments(TI)社、欧州ではスイスSTMicroelectronics社とスウェーデンEricsson社の合弁企業だったST-Ericsson社、フィンランドNOKIA社、アジアでは台湾MediaTek社や日本のルネサス モバイル、アドコアテックなどがチップを供給していた(2010年当時の社名で記載)。

 一方、中国独自のTD-SCDMAは、中国チップメーカーの台頭を生んだ。中国Huawei Technologies社の配下であるHiSilicon社や中国Spreadtrum社、中国Leadcore社などがTD-SCDMAの専用チップを続々と開発し、一定規模の市場を形成した。

全方式に対応しないと世界展開が困難

 3G世代はこうした状況下だったため、3方式のすべてに対応しない限り、全世界で同じチップを売ることができなかった。このハードルを最初に乗り越えたのがQualcomm社だ。同社が2011年に発表した統合チップセット「MSM8960」は3方式すべてをカバーし、かつ当時のLTEの最新仕様にも対応した。その結果、MSM8960は瞬く間に世界中で採用が進んだ。

 現在の4G世代においても2種類の通信方式が存在する。日米欧が推進したFDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)方式と、中国独自のTDD(Time Division Duplex:時分割複信)方式である。ただし4G世代では、3G世代のように通信方式の対応、非対応で市場にアプローチできなかったことを避けるべく、多くのチップメーカーが当初からFDD/TDDの両方式を備えたLTEモデムチップを開発した。

 4Gが普及した2016年現在でも、世界の全地域で4Gのネットワークにアクセスできるわけではない。場所によって3Gと4Gを切り替えて使う必要がある。その場合、3G通信の各方式への対応が問題になる。