中国HiSilicon Technology社は、中国の大手通信メーカーであるHuawei Technologies社の半導体部門である。もともとはASICチップの設計・開発部門としてスタートした。2004年設立なので既に12年の実績がある。監視カメラやホームエレクトロニクス用の半導体で多くのシェアを有していることに加えて、スマートフォン向けのプラットフォーム(チップセット)でも世界トップクラスの技術力と実績を持っている。

 HiSilicon社がスマートフォン市場に参入したのは2009年で、「K3(型名Hi3611)」と呼ばれるARM9コアのアプリケーションプロセッサーをリリースし、SUNNO社など中国の地場のスマートフォンメーカーに採用された。それから3年後の2012年、米ラスベガスで開催された「CES 2012」で、K3に続くアプリプロセッサーとして「K3V2」を発表した。図1は2013年初頭にリリースしたK3V2と、「LTE Cat.4(最大伝送速度は150Mビット/秒)」に準拠するベースバンドプロセッサー「Balong710」である。K3は130nmプロセスで製造したが、K3V2とBalong710はともに40nmプロセスと、90nm、65nmの2世代を飛び越してプロセス技術を進化させた。

図1 LTE Cat.4に準拠した世界初の商用ベースバンドプロセッサー「Balong710」のチップセット
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図1 LTE Cat.4に準拠した世界初の商用ベースバンドプロセッサー「Balong710」のチップセット

 実は世界初のLTE Cat.4に準拠するチップセットとして商用化されたのは、HiSilicon社の製品である。2012年当時、Balong710のチップセットは、Huawei社製のタブレット端末「MediaPad 10FHD」に搭載された他、日本ではイー・モバイル(現ワイモバイル)のLTEモバイルルーター「GL04P」にも採用された。LTE Cat.4に準拠する米Qualcomm社のモデム「MDM9225/9625」が商用モデルとして採用されたのは、ほぼ半年遅れの2013年夏だった。

 2009年の時点でほぼ無名だったHiSilicon社のチップは、2012~2013年に一気に業界トップの仕様に踊り出た。ベースバンドプロセッサーとアプリケーションプロセッサーのチップが別々だったものの、電源ICやトランシーバーなどを取りそろえた「チップセット」として供給された。